はじめに
会社を経営する上で常に頭を悩ませるのが資金調達の方法についてですが、優良資産を有する会社であればアセット・ファイナンスを活用して資金調達することができます。
この記事では資金調達の方法の一種であるアセット・ファイナンスについて解説します。専門的な単語が多く小難しいと感じるかもしれませんが、自社資産を活用した資金調達の方法として有用です。これまでアセット・ファイナンスについてあまり知らなかった経営者の方も、これを機に一度検討してみてはいかがでしょうか。
1.アセット・ファイナンスの概要
この章ではまずアセット・ファイナンスとはどういった資金調達の方法であるのかについて解説していきます。
1-1.アセット・ファイナンスとは何か
そもそもアセット・ファイナンスとはどういった仕組みで資金調達につなげていくのでしょうか。冒頭でもお話したように、アセット・ファイナンスとは自社資産を利用して資金調達をする方法のことを指します。一般的には不動産がよく利用されますが、知的財産権や売掛債権、さらには診療報酬債権まで活用することができます。
自社資産が生み出すであろうキャッシュフローを担保にすることで、資金調達につなげることができます。つまりは資産の流動化による資金調達ととらえてもらえればいいです。
1-2.アセット・ファイナンスの仕組みとは
アセット・ファイナンスを行うためにはまず、担保にする予定の資産を自社から隔離する必要があります。この隔離した資産はその後SPC(特別目的会社)へと譲渡します。例えば不動産であれば、1年間の賃料収入を担保にして証券を発行することもできます。そのため不動産は特にアセット・ファイナンスを活用して資金調達しやすいと言えます。
また債権であればファクタリングによっても資金調達することができます。もちろん債権そのものを担保に資金調達をすることも可能です。
1-3.コーポレート・ファイナンスとの違いとは
アセット・ファイナンスでは自社資産を担保にして資金調達を行うため、自社の信用度は特に関係ありません。一方で自社の信用力をベースとして資金調達する方法というのもあります。それがコーポレート・ファイナンスと呼ばれる方法です。
ただコーポレート・ファイナンスの場合では自社の信用力によって資金調達をするため、会社としての信用度が低い場合には利用することができません。しかしアセット・ファイナンスを通じて財務体質を改善していけば、会社としての信用度が高まりゆくゆくはコーポレート・ファイナンスによる資金調達も実現できる可能性があります。
どちらの資金調達の方法にもメリット・デメリットはありますが、より低コストで資金調達できるのはアセット・ファイナンスの方だと言われています。
アセット・ファイナンスの概要について大まかに理解したところで、次章では資産を流動化するメリットについて解説していきます。
2.資産流動化のメリットとは
アセット・ファイナンスとは資産を流動化することで資金調達につなげる方法であることを前述しました。それでは資産を流動化することのメリットとは、どのようなものがあるのでしょうか。以下で具体的に見てみましょう。
2-1.低コストで資金調達できる
コーポレート・ファイナンスのように会社としての信用力だけで資金調達ができればいいですが、たとえ実際に高い場合であっても会社の信用リスクは常に存在しています。そうした状況であってもアセット・ファイナンスであれば資金調達ができるため、資金調達すること自体のコストを低く抑えやすくなります。
2-2.売却後も継続的に関与できる
仮に不動産をSPCに譲渡してしまった後でさえ、その不動産をリースという形で継続利用することはできます。またSPCの資金調達やアセット・マネジメントに関する業務に関与することで、不動産の売却後であっても継続的に関係を維持することは可能です。
2-3.財務内容を改善できる
自社資産をオフバランス化(資産を会計上から外すこと)することで、貸借対照表の総資産残高を低減させることができます。これにより自己資本比率が必然的に高まり、流動化した資産については含み損益を出すことができます。場合によっては維持管理コストも削減できるため、財務内容を改善することに役立ちます。
2-4.リスクを移転することができる
資産を保有している経営者の方であれば分かると思いますが、資産には少なからずリスクがつきものです。例えば債権の場合であれば債務者の信用リスクが問題視されますし、不動産の場合であっても資産価値が低下するリスクや自然災害のリスクは存在します。アセット・ファイナンスで資産を流動化するだけで、そうしたリスクを移転できるので多少なりと安心できる部分はあります。
次章ではアセット・ファイナンスでよく活用される不動産を流動化するメリットについて解説していきます。
3.不動産を流動化するメリットとは
アセット・ファイナンスに利用される資産としては不動産が真っ先に挙げられますが、具体的にはどういったメリットがあるのでしょうか。この章で順に確認していきましょう。
3-1.不動産に流動性を与え資金調達に役立てられる
アセット・ファイナンスでは前述したように、自社資産に流動性を与えることで資金調達に役立てることができます。通常の場合であれば会社の事業のために利用するだけのところを、アセット・ファイナンスであれば資金調達のための担保として利用することができるのです。
3-2.会社の信用力に依存しない
会社の信用力がずっと高い状態を維持していれば特に問題なく資金調達できるでしょうが、現実にはそんなことはありません。業績次第では信用力が落ちてしまう時期もあるかもしれません。そういった状況だと会社の信用力に依存した資金調達の方法は難しくなりますが、その一方で不動産を担保にするアセット・ファイナンスであれば会社の信用力にかかわらず資金調達をすることができます。
3-3.不動産をオフバランス化することで財務指標が良くなる
前述したように不動産をオフバランス化することで、財務内容を改善することができます。そうなると必然的に財務指標が良くなり、経営状態がプラスに評価されやすくなります。
不動産を担保にすることで資金調達できるのが最大の強みと言えるアセット・ファイナンスですが、これに対するデメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。次章では不動産を流動化するデメリットについて解説していきます。
4.不動産を流動化するデメリットとは
不動産を流動化して資産を得るアセット・ファイナンスは、必ずしもメリットばかりであるとは言えません。この章では不動産を流動化するデメリットについて確認しておきます。
4-1.仕組みが複雑である
アセット・ファイナンス最大のデメリットと言えば、やはり仕組みが複雑であるということでしょうか。アセット・ファイナンスで資金調達をしようと思うと専門的な知識が必要となりますし、もちろん手続きも割と煩雑です。金融の知識を身につけた従業員がいない限りは、アセット・ファイナンスを自社内で行うことは少しハードルが高いかもしれません。
4-2.優良な不動産でないと流動化できない
特に不動産の場合に言えることですが、不動産と一口に言ってもその価値はピンからキリまであります。優良な不動産であればそれを流動化して担保にすることができますが、価値があまりない劣悪なものともなると流動化して担保にすることはまず不可能です。
不動産を流動化することにはこれらのデメリットがある訳ですが、デメリットとメリットとを比較した際にどちらが勝るかでアセット・ファイナンスをするか否か決めるのもいいかもしれません。
ここまではアセット・ファイナンスについて解説してきましたが、次章では途中で言及したファクタリングについて簡単にですが紹介しておきます。
5.ファクタリングのメリット・デメリット
会社が保有する売掛債権をファクタリングの専門会社に買い取ってもらう資金調達のことを、ファクタリングと呼びます。ファクタリングには2社間ファクタリングと3社間ファクタリングとがあります。2社間では債権を持つ会社とファクタリング会社のみで完結しますが、3社間ともなると取引会社の同意を得る必要が出てきます。
そんなファクタリングのメリット・デメリットをまとめて紹介すると、以下のようになります。
5-1.ファクタリングのメリットとは
それではまず、ファクタリングのメリットから見ていきましょう。
・支払いの期日前に資金調達することができる
・債権の貸し倒れリスクを負わずに済む
・債権を回収する時間や手間が省ける
ファクタリングのメリットとしては主にお金が期日よりも早く手に入る点にありますが、対するデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
5-2.ファクタリングのデメリットとは
資金が入るタイミングをより早めてくれるファクタリングですが、デメリットとしては以下のようなものがあります。
・3社間の場合では取引会社への通知が必須
・ファクタリング自体の手数料が高くつく
・ファクタリングの事実を知られ、悪影響が出ることもある
ファクタリングは早急な資金調達の方法という認識があり、大手企業は参加していないということも多々あります。また会社の資金繰りに問題があるのかと疑われる元にもなり、場合によっては取引先からの信用に関わってくる可能性はあらかじめ認識しておく必要があるでしょう。
ここまではアセット・ファイナンスのことを中心に解説してきましたが、会社経営する上ではこれ以外にも資金調達する方法がいくつかあります。この章では次に、その他の資金調達の方法についても紹介しておきます。
6.エクイティ・ファイナンス
企業が自社の株式資本を利用して資金調達する方法としてエクイティ・ファイナンスがあります。主には新株を発行する形で資金調達に役立てるのですが、エクイティ・ファイナンスを実施することで貸借対照表の資本が増加するのが特徴的です。
6-1.エクイティ・ファイナンスの種類とは
新株を発行して資金調達する方法としては4種類あり、その概要は以下の通りです。
①公募
時価で新株を発行する方法です。「時価発行増資」とも呼ばれ、自社の株価が高ければ高いほど少ない株式数であってもより多くの資金調達をしやすくなるという特徴があります。
②株主割当増資
新株発行時に割り当てを受けられる権利を、既存株主の保有株式数に応じて与える方法として株主割当増資があります。株主割当増資によって発行される新株については、時価よりも安い金額設定になるのが一般的です。ただし既存株主にこの権利が与えられたからといって強制力はなく、この権利を使用しなければいずれ失効するだけなので株主が特に損をすることはありません。
③第三者割当増資
特定の第三者に対して新株を購入できる権利を与える方法として第三者割当増資があります。この方法の場合では既存株主のみに限定する必要はないため、仕事上の取引先との関係改善のために新株を役立てる、あるいは自社の株価が低い時に利用する方法が一般的です。
④転換社債型新株予約権付社債
株式に転換できる権利つきの社債を発行して資金調達に役立てる方法として、転換社債型新株予約権付社債があります。この方法では社債を新株に転換できるというメリットがある一方で、通常の社債よりも利回りが低くなるというデメリットは存在します。
ただし株式に転換する際の価格はあらかじめ設定されているため、その価格以上に株価が跳ね上がった時にはより大きな利益を得られる可能性があります。また株式に転換しない場合では、通常の社債と同様に毎年一定の利払いがしたり、さらに満期になると額面金額が償還されます。
6-2.エクイティ・ファイナンスのメリット
このエクイティ・ファイナンスを利用するメリットとしては主に2つあります。
まずエクイティ・ファイナンスを利用することで資本を増加させられるので、自社の財務体質を改善することができます。またエクイティ・ファイナンスの場合では借り入れをして資金調達する方法とは異なるため、余分な支払いが発生する心配もありません。
6-3.エクイティ・ファイナンスのデメリット
会社にとってもメリットが多いと感じるエクイティ・ファイナンスにもやはりいくつかのデメリットが存在します。
まず資金調達に役立てるためとはいえ新株を多く発行しすぎると、自社の一株あたりの株価が安くなってしまうリスクがあります。また新株を発行する分だけ株式保有数の多い株主が増える可能性があり、保有株式数によっては自社の経営に口出しされやすくなります。
加えて既存株主に新株を割り当てる場合以外には、既存株主に対して事前に説明をした上で合意を得るという段階を踏まなければなりません。
エクイティ・ファイナンスでは新株を発行することで資金調達ができるメリットがある一方で、既存株主にとっては所有する株式の価値が薄まるというデメリットが存在します。そのためエクイティ・ファイナンスでの資金調達には株主への説明や会社法で定められている手続きなどが必要となり、ある程度の期間を要することになります。
短期的な資金調達の方法としては不向きであるため、会社の成長のためにまとまった金額の資金調達が必要となる場合に限り適宜利用していくことが望まれます。
7.デット・ファイナンス
エクイティ・ファイナンスの場合では新株を利用して資金調達する一方で、デット・ファイナンスの場合では借り入れをすることで会社の資金調達に役立てます。現にデット・ファイナンスを利用して資金調達をしている会社は多く、方法次第では短期的な資金調達をすることも可能です。
7-1.デット・ファイナンスのメリット
デット・ファイナンスでは借り入れを増やして資金調達に役立てるため、公的機関や銀行から借りて返済実績を作れば、会社の社会的な信用力を向上できます。また返済実績を着実に作っていければより多くの金額で借り入れすることも可能になります。
7-2.デット・ファイナンスのデメリット
しかしその一方で、デット・ファイナンスでは毎月の元本と利息の返済についても考慮しながら会社の資金繰りを行わなければならないというデメリットが存在します。また借り入れの金額が増えるほど会社の負債が増えることになるため、利用方法によっては財務体質が悪化するリスクも高くなってきます。
また借り入れの返済資金を自社だけでまかなえない場合には、他社から借りたお金で返済を続けるという自転車操業に陥りやすくなってしまいます。最悪の場合では会社が倒産する、あるいは倒産後も借り入れだけが残ってしまうというデメリットも存在するのでむやみに多用しすぎるのは命取りです。
デット・ファイナンスでは負債が増えるため多用しすぎることは避けるべきですが、いざという時の資金調達の方法としては十分活用することができます。またノンバンクからの借り入れの場合では、高金利が発生して余分な支払いが増えてしまうことで会社の資金繰りが悪化するリスクも高くなります。
突発的な出費に充てるのは有意義ではありますが、あくまでもノンバンクの利用は最終手段として温存しておくのが無難と言えます。
まとめ
優良な資産がある会社だとアセット・ファイナンスは非常に有益な資金調達の方法と言えます。ただし専門知識がある程度ないと手続きが難しいので、自社内でどうしても無理な場合には資金調達をサポートしてくれる専門家を頼るといいでしょう。
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