はじめに
ビジネスを行う上では大なり小なり費用がかかるものですが、特に高額の費用がかかった資産については減価償却費として計上することができます。
減価償却というと一見小難しい知識であるかのように感じられるかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。減価償却について正しい知識を身につけることはすなわち、自分のビジネスをより賢く成功させるための糸口となります。
そこで今回の記事では、ビジネスをする上で必要不可欠となる減価償却について解説します。会社の経営の肝となる会計上の処理の基本ともなる考え方なので、今後高額の資産を購入する予定がある方はこの機会に勉強しておきましょう。
1章:減価償却の概要
この章ではまず減価償却の概要について解説していきます。
1ー1 減価償却とは何か
そもそも減価償却とは不動産や社内設備、社用車などの高額な資産の購入費を法定耐用年数に応じて分割で計上するための会計上の処理となります。これらの高額資産については法定耐用年数がそれぞれの資産の種類によって決まっており、その一覧については国税庁の公式ホームページで確認できます。また国税庁のホームページで目当ての資産の法定耐用年数が分からない場合には、税理士に一度相談してみるといいかもしれません。
1ー2 減価償却の主な処理方法
次章では減価償却の主な会計上の処理方法について解説しますが、ここで主な処理方法について簡単にですが確認しておきます。
減価償却では一般的に次のような手順を踏むことになります。
①購入費の全額を資金として計上する
②所定の計算方法に沿って分割して費用に計上する
③支払いの最終年度以降については、1円で継続して計上する
減価償却が該当する資産については経年劣化するものが前提としてあり、その一方で経年劣化しない資産については減価償却が適用されないことになります。減価償却できない資産については具体的に絵画や骨董品、有価証券などがあります。
①の初年度では購入時にかかった費用は計上せず、まずは資産としてその全額分を計上します。次に②の行程では後述する計算方法に沿って購入金額を分割し、分割した購入費がある年度については費用として計上していきます。そして③のように費用支払いの最終年度については1円だけ残すようにして、それ以降は備忘費として1円だけを継続して計上します。
1ー3 減価償却の適用範囲
たとえ高額な資産を一括で購入した場合であったとしても、会計上の処理として一括で費用計上することは原則として認められていません。ただし10万円、20万円、30万円の各金額によって減価償却の適用範囲が変わってきます。
①10万円未満の場合
資産の購入費用が10万円未満の場合では、減価償却が適用されることはありません。
②10万円以上〜20万円未満の場合
この金額帯の場合では選択肢がいくつかあります。
・減価償却
所定の法定耐用年数に応じて費用を分割で計上できます。
・一括償却
法定耐用年数を問わず、3年間で費用を分割計上する。この場合は備忘費の1円を残さず、3年間で全額計上できるように注意しなければなりません。
・少額減価償却資産の特例
①青色申告している中小企業②その年度における特例の合計額が300万円以内③平成32年3月31日までの期間に取得したものという、これら3項目の条件を全て満たした場合に限り、30万円未満の資産の支払いについて少額減価償却資産の特例が適用することができます。
この場合では購入時点でその全額をいったん資産として計上しておき、年度末の会計処理においてその購入金額を費用として一括計上する運びとなります。また②の条件とも関連する取得価額の判定方法についてはその資産の1単位ごとと決まっています。
これらの選択肢の中からいずれか一つを選択して、費用計上することになります。
③20万円以上〜30万円未満の場合
この場合では上記で紹介した少額減価償却資産の特例が適用可能なため、重複する説明は省略します。
30万円未満であればその段階ごとに選択肢が用意されていますが、30万円以上の購入費用がかかった場合では減価償却しない資産以外は全て減価償却にて費用計上しなければなりません。次章ではこの内容を踏まえた上で、より詳しい計算方法について解説していきます。
2章:減価償却の計算方法
30万円以上の費用が発生した会社の資産については、基本的に減価償却によって分割して費用計上することになります。ただ、その際には国によって定められた計算方法に従って、毎年度の計上金額を算出しなければなりません。以下では主に利用される2種類の計算方法についてそれぞれ見ていきます。
2ー1 定額法
定額法は名前の通り、毎年度の費用計上が一定額になるよう分割するための計算方法です。その計算式は以下のようになります。
(毎年度の分割費用)=(取得価額)×(定額法の償却率)
分割して費用計上すると再三にわたり解説しているため、この記事を読んでいる方の中でも「法定耐用年数で割らないのか」と不思議に感じた方もいるかもしれません。しかし、割り算で計算してしまうとその金額に小数点以下の端数が出てしまうため、費用がきちんと定額として算出できません。その一方で掛け算での計算であれば分割する費用が一定額になり、毎年度同じ金額で費用計上することができます。
年度ごとの費用の金額にばらつきがないため、会計処理において経営上の数値の負担となりにくいのが特徴的です。
2ー2 定率法
それに対して定率法では、最初のうちこそ費用金額が大きいものの、年度が進むにつれて費用がより少額へと変化していきます。その代わりに、定率法の償却保証額を下回った年度以降については、毎年同額の費用を計上していかなければなりません。
定率法で用いる主な計算式としては、以下のようなものがあります。
①(分割費用)=(未償却残高)×(定率法の償却率)
②(分割費用)=(取得価額)×(定率法の保証率)
③(分割費用)=(改定取得価額)×(改定償却率)
最初のうちは①と②の計算式の解答を見比べ、①の方が答えの数値が大きい場合には①の金額をそのまま費用計上します。ただどこかの年度の時点で数値の大小が逆転するため、②の答えがより大きくなった場合には③の計算式で算出した答えを費用計上します。これ以降は法定耐用年数に達するまで毎年同じ金額で費用計上していき、最終年度についてのみ備忘費として1円だけを残しておきます。
定額法か定率法のどちらの計算方法を選択するかはあなた次第ですが、直近の年度で売上が右肩上がりになる可能性がうかがえれば定率法で費用計上してもいいでしょう。また定率法による初年度の費用計上で経営が赤字に傾きそうであれば、無理はせず定額法で毎年同額を費用計上していく方がいいかもしれません。
どうしても自分でどちらの計算方法がいいのか決められない場合には、税理士に相談した上で判断するというのも選択肢の一つです。
また個人事業主の場合では定額法による減価償却が定められていますが、どうしても計算方法を変更したい場合には税務署に届け出を行うことが必須となります。
青色申告をしている個人事業主であれば、30万円未満の資産を少額減価償却資産の特例に基づき一括で費用計上することができることを前述しました。しかし白色申告している個人事業主の場合ではこれが適用されず、10万円未満の資産についてしか一括で費用計上することができません。
法人の場合ではまた別途定められた規定に従い、減価償却の計算を行う必要があります。ただこの記事を読んでいる方は恐らく中小企業の経営者の方が中心かと思うので、ここではその解説を省いておきます。
次章では減価償却を誤った際の対処法について確認していきましょう。
3章:減価償却を誤った際の対処法とは
たとえ細心の注意を払っていたとしても、人為的なミスが起こる可能性は少なからずあるものです。ただこの場合でも法人か個人事業主かによって対処法がそれぞれ変わってきます。
今回は法定耐用年数を誤って計上してしまった際の対処法について、それぞれの場合に応じて確認していきましょう。
3ー1 法人の場合
法人の場合では過去分の誤った箇所の訂正はせずに、次年度から正しい法定耐用年数にて費用計上していきます。
3ー2 個人事業主の場合
その一方で個人事業主の場合では、誤った償却費については更正の請求により訂正しなければなりません。ただしこれは新品の資産を購入した場合に限られ、中古の資産を購入した場合については過去分の訂正ができません。そのため誤った箇所はそのままにして次年度から正しい償却費を計上していくことになります。
減価償却では法人か個人事業主かの違いにより規定が変わることがしばしばあり、自力で対処できない事態も出て来るかもしれません。そんな時は税理士もしくは税務署に相談してから対応するようにし、独断で対処しないように注意しましょう。
4章:減価償却は何のために存在するか
ここまで減価償却の主な方法について解説してきましたが、この章では記事のまとめとして、そもそも減価償却とは何のために存在する制度なのかについて簡単にですが紹介しておきます。
4ー1 経営を安定させるため
仮に減価償却という制度自体がなかった場合、法人にせよ個人事業主にせよ資産の購入費用を一括で計上しなければならなくなります。そうなると購入年度の支出が一気に膨れ上がることになり、その年度の売上は赤字として計上することを余儀なくされるでしょう。そうなってしまうと本来あるべきはずの売上が正常に判断できなくなるだけでなく、高額資産を購入する都度赤字で計上せざるを得なくなります。
こうなってしまうと特に株式上場を果たしている法人についての評価がぶれやすくなり、株価が乱高下する恐れがあります。経営の安定化を図るためには年度ごとの支出のばらつきをなるべくなくす方向に分散する必要があり、その点では減価償却というこの制度が一役買っています。
4ー2 税収を途切れさせないため
前項で述べた内容について税収面からも言及しておくと、高額資産を購入したその年度に赤字を計上されてしまうと、税務署は赤字繰り越しが行われた年度分だけ税金を回収できなくなります。税収が不安定になるとそれだけ国政への影響が懸念されるため、税収を途切れさせないための能動弁としての意味合いも減価償却には含まれています。
4ー3 資産の存在を会計上で確認するため
前述した内容で法定耐用年数に応じて分割計上する最終年度については、1円だけ備忘費として残すように計上することを書きました。仮に1円を残さず最終年度にその全額を費用計上してしまった場合、帳簿上ではその資産が現に存在するかどうかを確認する術がありません。そのため帳簿上でその資産が存在することを確認するための手段として、分割での費用計上が済んだ後は1円だけを残しておく決まりとなっています。
この方法で資産の有無が確認できるのも、減価償却という制度が根本にあるためです。ちなみにこの1円だけを残して帳簿上に継続して表記される資産も、いずれは耐用年数が過ぎて廃棄することになるはずです。廃棄した場合には減価償却費を1円として費用計上すればいいですが、その資産を売却して損益が発生した場合では話が別です。
売却した際に利益がいくらか生じた場合には固定資産売却益として、逆に手数料などがかさみ損失が生じた場合には固定資産売却損として別途計上する必要があります。
減価償却による費用の動きと実際のキャッシュフローとではお金の動きがそれぞれ違うため、会計上の数値の扱いに不慣れな方であれば少々難しく感じられるかもしれません。ただ経営者として会社のお金を動かす上では避けて通れない部分でもあるので、徐々にでも慣れていく他ありません。
まとめ
減価償却費そのものは計算すれば簡単に算出できるため、後は定額法と定率法のどちらを選択するかによって計算式の煩雑さや毎年度における費用計上の金額が若干変動するだけです。減価償却の制度を上手く活用することで年度ごとの費用を抑え、売上の黒字化を目指しやすくなります。
自分の会社の経営状況を常に確認しつつ、状況に合わせて減価償却の計算方法を変化させてみるといいでしょう。