はじめに
日本国内の会社でもその規模は様々ですが、国内でも特に多いのが中小企業です。中小企業の場合では取引先から任される仕事量によって収益が左右される傾向にありますが、会社の存続についても然りです。取引先の会社が倒産してしまうとその取引先から売掛金が回収できず、結果的に巻き込まれる形で倒産することも実際にあります。そんな窮地を救ってくれるのが中小企業倒産防止共済、略して「倒産防止共済」となります。
この記事ではそんな倒産防止共済とはどのような仕組みであるのか、加入するメリットやデメリットについて解説します。法人保険とどちらの方がよりメリットがあるのか知りたいという方も、この記事を読んで参考にしてみてください。
1.倒産防止共済とは何か
そもそも倒産防止共済とはいったいどのような仕組みか知らないという方もいるかもしれません。この章ではまず倒産防止共済がどのような仕組みであるかを順に確認していきましょう。
1-1.倒産防止共済の加入条件
倒産防止共済は中小企業が安定的な経営をするために設立されたものであり、別名「経営セーフティ共済」とも言います。そんな倒産防止共済でも加入条件があり、「1年以上会社経営をしている中小企業」に限られます。この加入条件自体もかなり最低限の条件と言えるため、利用すること自体はそれほど難しくもありません。
ただ倒産防止共済では対象業種によっても資本金および従業員の人数が決まっており、その加入条件を別途満たせなければ倒産防止共済を利用することはできません。詳しい内容については中小機構の公式ホームページを確認してください。
1-2.倒産防止共済の掛け金
倒産防止共済の掛け金の範囲は意外と幅広く、月額で5千円から20万円まで選択することができます。また掛け金については支払いの途中でも増減することは可能ですが、積み立てられるのは総額で800万円までと決まっているのでその点は注意が必要です。
1-3.倒産防止共済の解約
基本的には解約するタイミングはいつでも構いませんが、加入してから一年以内に辞めてしまうと解約手当金としてお金が全額戻ってこないことはあらかじめ知っておいた方がいいでしょう。1年以上加入している状態で解約する場合にはその加入期間の長さによって、戻ってくる解約手当金の金額が異なります。詳しい内容については後ほど解説します。
倒産防止共済の概要について簡単に触れておきましたが、倒産防止共済を利用するメリットはこれ以外の部分でもいくつか挙げられます。倒産防止共済に加入するかどうかを検討する判断材料となりうる内容については次章で詳しく解説していきます。
2.倒産防止共済に加入するメリットとは
倒産防止共済に加入するメリットとしては、具体的に以下のようなものが挙げられます。
2-1.加入するためのハードルが低い
倒産防止共済では「資本金の額または出資の総額」、「常時使用する従業員数」のどちらかの条件を満たすことで加入することができます。倒産防止共済は中小企業が対象となるため、会社としての形態であろうと個人事業主であろうとどちらでも特に問題ありません。
2-2.掛け金を損金として計上できる
倒産防止共済の掛け金については損金として計上できるため、ある程度の節税効果が見込めます。基本的には1年間でかかった掛け金を全て損金計上できるので、決算期にも有効です。ただし損金計上できるとされる掛け金の金額については年間で240万円、総額で800万円までという上限はあります。税負担を軽減できる点は倒産防止共済の一つのメリットと言えるでしょう。
2-3.掛け金の選択肢が多い
倒産防止共済では5千円から20万円までの間で選択することができ、会社の経営状態に合わせてその金額を増やすこともできれば減らすこともできます。掛け金の選択肢が多いということはその分会社のキャッシュフローを圧迫しにくいと考えられ、場合によっては経営に悪影響を及ぼさない最低限の掛け金で加入し続けることもできます。
2-4.40ヶ月の加入で掛け金が全額バックされる
前章で1年以内に解約すると解約手当金が一切戻ってこないことに触れましたが、特に40ヶ月以上加入した後に解約すると解約手当金として掛け金が全額バックされることになります。これは加入期間の長さによって変動するため、具体的には以下のようになっています。
・12ヶ月以上24ヶ月未満であれば、80%がバックされる
・24ヶ月以上30ヶ月未満であれば、85%が バックされる
・30ヶ月以上36ヶ月未満であれば、90%がバックされる
・36ヶ月以上40ヶ月未満であれば、95%がバックされる
加入期間が長ければ長いほど解約手当金の金額が増額されると覚えておけばいいでしょう。加入してから40ヶ月以上経てばいつ解約しても全額バックされるため、その点は大きなメリットと言えるでしょう。
2-5.いざという時の共済金の貸付けがある
倒産防止共済では取引先が倒産して掛け金が支払えなくなった際に、共済金という形で貸付けを受けることができます。この共済金の上限金額については掛け金の総額のおよそ10倍と決まっており、例えば800万円の積み立てがある場合には8,000万円の貸付けを受けることが可能であることを意味します。
ただしこの共済金については注意点があり、無担保無利子で借りられる一方で、共済金の1/10の金額が掛け金から取り崩される仕組みになっています。そのため8,000万円の貸付けを受けてしまうと800万円の掛け金が一瞬で溶けてしまうことにもなりかねないので注意が必要です。
2-6.解約後も再加入できる
倒産防止共済では解約後であっても加入条件さえ満たしていれば再加入することができます。ただ何の制約も受けないという訳ではなく、再加入してから6ヶ月のうちは共済金の貸付けを受けることができません。再加入した時点で半年間は、いざという時の最終手段がなくなってしまうことを肝に銘じましょう。
ここまで倒産防止共済のメリットについて紹介してきましたが、だからと言ってデメリットが全くない訳ではありません。次章では倒産防止共済に加入するデメリットについて解説していきます。
3.倒産防止共済に加入するデメリットとは
中小企業にとって何かとメリットの多い倒産防止共済ですが、それでも加入する上で注意しておきたいデメリットもいくつか存在します。この章では最後に倒産防止共済に加入するデメリットについて触れておきます。
3-1.収益が掛け金を下回ると節税効果がなくなる
倒産防止共済の掛け金は全て損金計上できることを前述しましたが、そのことにより節税効果が現れるのは掛け金の総額よりも収益の総額が上回っている場合に限られます。そのため逆に掛け金が収益の総額を上回ってしまうと、倒産防止共済の加入で見込める節税効果は失われてしまいます。会社の収益については必ずしも一定であるとは限らないため、加入するのであれば会社のキャッシュフローに悪影響を及ぼしにくい金額で掛け金を設定するべきでしょう。
3-2.法人保険のように死亡保障がない
この記事を読んでいる方の中にも倒産防止共済を加入するか、それとも法人保険に加入するかで悩んでいる方もいるかもしれません。法人保険と比較した際のデメリットとして、倒産防止共済では経営者が亡くなった際の死亡保障はありません。経営者の身に何かあった場合に対する備えがないため、その点で比較すると法人保険の方がより優れています。
3-3.掛け金の上限金額が決まっている
倒産防止共済では年間240万円、総額で800万円という掛け金の上限額がありますが、法人保険の場合ではそういった上限がありません。そのためより多くの掛け金を損金として計上することも可能です。法人保険の掛け金についても損金計上できるため、年間で計上できる損金の総額については倒産防止共済の方が少額であることは否めません。
3-4.解約時のバックは収益換算される
掛け金として倒産防止共済に支払い続けたお金については損金として計上できる一方で、解約時にバックされる解約手当金については雑収入として収益換算されてしまいます。そのため倒産防止共済を解約するタイミングを十分に考慮しなければ、予想外の収益の増額により税負担が大きなものにもなりかねません。解約のタイミングとしては従業員への退職金の支払いが多い、もしくは大幅な赤字が出てしまうと予想されるタイミングに合わせると解約手当金の税負担を相殺できる可能性があります。
3-5.倒産防止共済の解約金は一括でしか受け取れない
上記のデメリットだけに言及すれば、「倒産防止共済の解約金を部分的に受け取れないのだろうか」と考えてしまう方もいることでしょう。しかし残念なことに倒産防止共済の解約金については一括で受け取るしか選択肢がありません。これが法人保険の場合であれば「一部解約」という形で、返戻率の高いタイミングを狙って毎年徐々に解約金を受け取ることも可能になります。解約金の受け取り方を選択できない側面があるため、解約時には倒産防止共済の方が不便なところが目立つはずです。
前章で紹介したためここでは省きましたが、共済金の貸付け金額によって1/10の金額が掛け金から取り崩されるというのもかなり大きなデメリットであると言えます。また共済金を借りた金額によっても返済期間の縛りがあるので、場合によっては共済金の返済のせいで会社のキャッシュフローが危うい状態に追い込まれる可能性もあります。
倒産防止共済の共済金についてはあくまでも最終手段と捉え、できる限り借りないように心がけることをおすすめします。
4.生命保険を使った節税対策とは
ここまで倒産防止共済について解説してきましたが、経営者としては資金調達の方法について考えることはもちろん、節税対策についても併せて考慮しておきたいものです。この章では次に、生命保険を使った節税対策について取り上げてみましょう。
4-1.生命保険の意義とは
会社の経営者であるあなたが亡くなってしまった場合、会社はどうなるでしょうか。遺族が財産放棄してくれれば会社に関する負債や税金を背負う必要はありません。しかし現実問題として遺族の方の多くは、残された会社を相続する傾向にあります。
そのため遺族になるべく負債を残さないように生前から配慮しておくべきであり、その要となる節税対策にも活用できるものとして生命保険があります。
4-2.生命保険を選ぶ際の注意点
生命保険を選ぶ際には恐らく保険の代理店に声をかけることになると思いますが、ここで一点注意点があります。それは生命保険を選ぶ際には一社のみに絞らず、複数社で見積もりを出してもらうことが大切です。
営業マンとしても自分の点数が高くなる保険商品を売り込んだ方が自分のためになるので、あなた自身のためになる保険商品を必ずしも勧めてくれるとは限りません。そのため会社役員として加入できる生命保険にはどのようなものがあるかについては、自分自身でもある程度は把握しておいた方がいいでしょう。
4-3.生命保険の主な種類
生命保険と一言で言っても、実はその種類によって特徴がそれぞれ異なります。以下で生命保険の主な種類について、簡単に確認しておきましょう。
①長期平準定期保険
長期間にわたり、解約返戻金の返礼率が徐々に上がっていく。一般的には役員の退職金を捻出するために利用されることが多い。
②養老保険
所得税が課税されないという特徴があり、会社の従業員全員で加入するのが原則。とはいえ入社後ある程度の期間が経過した社員のみを選別して加入させることも可能ではある。
③生活障害保障型定期保険
この種類では掛金が全額経費として認められ、かつある程度の返戻金も期待できる。ただしその返礼率は低い。
④遁走定期保険
上記の種類よりも早く返戻金のピークが訪れるのが最大の特徴である。この種類では返戻金の返礼率が高いため、加入済みの従業員全員で節税対策をしておくことが必須の課題となる。
いずれの種類についても言えることですが、最高解約返礼率が高いほど損金参入割合が低くなる傾向にあります。基本的には山状の線を描くように資産額が上がることが予想されます。生命保険を活用することでも一定の節税効果が狙えるため、こちらも活用してみるといいでしょう。
5.役員報酬による節税対策とは
上記の内容でも生命保険の解約返戻金を役員の退職金として充てることを前述しました。役員報酬ともなるとある程度の金額になるため、場合によっては余分な税金が発生する恐れもあります。この章では最後に、役員報酬による節税対策についても併せて確認しておきましょう。
5-1.役員報酬での節税
会社の利益が上がることが予想される年度については、役員報酬を増額することで節税対策として役立てることができます。例えば役員報酬の限界税率を法人税の実効税率と同程度になるまで役員報酬を増やすことで、役員報酬の一部として損金計上することができます。
ただし役員報酬の改定が認められるのは、決算期から3ヶ月以内と決まっています。またこの時期を過ぎてしまうと変更できないため、利益額を的確に予想して適切な金額の役員報酬を決めることが肝心です。
5-2.家族や親族を役員に含める
会社経営に家族や親族が関与している場合であれば、自身の家族および親族を会社役員として報酬を支払っているところも恐らくあるでしょう。ただし法的な手続きの妥当性、職務の内容から考慮してその報酬金額が過大でないかどうかを客観的に判断されることになります。
例えば家族や親族のどなたかを非常勤役員として選出する場合であれば、年間200万円程度の報酬までなら否認される確率は限りなく低いと言えます。またより貢献度の高い業務を任せているという場合にはこの限りではありません。
5-3.退職金の税金優遇を活用する
勤続年数の長さによって金額を増額できる退職金は、会社にとってこの上ない節税対策として活用できます。
退職金の場合では退職所得控除を控除できますし、退職所得控除を差し引きした後の金額の半分にしか課税されることはありません。また分離課税が適用されることからその他に所得があったとしても累進課税されることはない、というのが退職金の税金に関する優遇です。役員の退職金をいくらに設定すればいいかと悩んだ場合には、以下の計算式に当てはめてみるといいでしょう。
役員退職金=最終月額役員報酬×勤続年数×功績倍率
功績倍率の部分については役職によってもそれぞれ異なりますが、経営者でおよそ3倍程度に設定される場合が多いです。過剰な金額を盛るのも考えものですが、少額すぎても損金計上による節税効果があまり出ないので、その点は十分注意してください。
まとめ
記事の後半では法人保険と比較する形で倒産防止共済のデメリットについて紹介しましたが、倒産防止共済と法人保険については性質がかなり異なります。そのため会社の経営状態に合わせてどちらに加入するか決めてもいいですし、あるいはそのどちらにも加入してしまうという方法も考えられます。
いずれにせよ倒産防止共済ではどういったメリットとデメリットがあるかをよく理解した上で、その加入の是非について検討してみるといいでしょう。