はじめに
会社の業種や業態は実にさまざまですが、どのような業種や業態であっても繁忙期や閑散期があることは同様です。特に保険料に関する話でよく耳にするのが、「4〜6月の間に残業すると保険料が高くなって損する」というものです。これはいったいどういったカラクリで保険料が高くなってしまうのでしょうか。
この記事では4〜6月に残業が多いと保険料が高くなる仕組みと、会社として知っておきたい節税術について解説します。また記事の後半では「会社における領収書の管理で重要なこと 」(https://shikin-master.com/arrangement/985/)と「会社における経費の定義とは?どこまで経費で計上できる?」(https://shikin-master.com/factoring/838/)の内容を参考にしました。経費として何が計上できるかを詳しく知りたいという方は、これらの記事も目を通してみるといいでしょう。
1.残業と保険料との相関性とは
冒頭で4〜6月に残業が多いと保険料が高くなるということに触れました。会社が従業員に対して掛けるべき保険として健康保険や厚生年金保険などの社会保険がありますが、これらの保険料は原則として4〜6月の給料をベースに計算されています。そのため4〜6月の間が特に忙しい会社であれば当然残業も多くなってしまうので、結果的に保険料が高くついてしまいます。
この保険料を決定する際に参照されるのが「標準報酬月額」です。これは「標月」としばしば略称されますが、一般的な会社であれば3月が決算期であるため4月分の給料が通常の場合よりも高くなりがちでしょう。また春のこの時期が例年のように繁忙期であるという業種の会社もあるかもしれません。
そのせいで給料自体は変動していないのに4〜6月分の残業代が高くなり、必然的に保険料が高くついてしまうことは往々にしてあります。ただし毎年4〜6月の給料だけが残業代込みで高いという場合に限り、例外的に別の計算方式が適用されることはあまり知られていません。具体的にはどういうことでしょうか。
2.標月の例外とは
標月の決定は基本的に4〜6月分の給料をベースに計算されるものですが、例年のようにこの時期限定で給料が変動する場合では年間での給料の平均をとって計算してもらえる場合があります。これに該当するためには以下の条件を全て満たす必要があります。
①4〜6月分で計算した標月と、前年の7〜6月で計算した標月とで2等級以上の差が出ること
②上記の差が業務の性質として、例年のように見込まれること
③被保険者である従業員がその計算方式の変更について同意していること
これらの条件を満たしていれば、4〜6月の給料だけ高くなりがちな業種の会社であっても保険料をより安く抑えることが可能です。
ただし一点だけ注意点もあります。この保険料が高くなるということはすなわち、以下のようなお金が少なくなることをも意味しています。
・傷病手当金
・出産手当金
・将来的に貰える老齢年金 など
そのため保険料を安く抑えられることが必ずしも得なことではないとも言えます。こうした側面があることを知った上でなお毎月支払われる保険料を安く抑えていきたいという場合には、従業員からの同意を得た上で年間給料での計算方式への変更を、年金事務所や健康保険組合に会社として申し出る必要があります。
3.3歳未満の子供がいれば特別な措置があることも
会社員として働く方の中には3歳未満の子供を養育するために、正社員から時短社員としての働き方に変更している方もいるでしょう。そうした方であれば給料が減額されたために標月が下がり、保険料とともに将来的な年金も減額されてしまっているかもしれません。
しかしそうした親御さんであれば、保険料は短時間勤務の条件で計算される一方で、年金については短時間になる前の標月で計算してもらえるという特別措置を受けられる可能性があります。
この措置を受けるためには、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」にその従業員の戸籍抄本と住民票などの書類を添付した上で、それらの書類を会社側で年金事務所に届け出る必要があります。この制度の場合であれば保険料が減った時のようなデメリットは特にないため、該当する従業員についてはメリットだけを享受することができます。
幼い子供を育てるために短時間勤務の時短社員になった従業員がいる場合には、こうした制度を利用して福利厚生を充実させられることも知っておいて損はないでしょう。またこの制度については時短社員になる2年前までさかのぼり以前の標月を調べてくれるため、2年を超過しないうちに届け出を済ませることが望まれます。
4.月をまたぐと高額療養費は損する?
病気や怪我によってその医療費が高くついた場合には、「高額療養費」として一定額が返金されるという制度は皆さんご存知のはずです。これは医療費の自己負担額を軽減させるための制度なのですが、実はこの高額療養費が月単位で計算されていることはあまり知られていません。
ただ病気や怪我をするタイミングが予測できる訳はありませんし、入院や手術の日程を月をまたがないように調整するのも患者には無理があります。とはいえ手術や入院により医療費が高額になることがあらかじめ見込まれる場合には、健康保険組合などで事前に手続きを行っておくことも可能です。その手続きで「限度額適用認定証」を受け取っておくだけで、病院の窓口では自己負担額の限度額までの支払いだけで済ませることもできます。この方法であれば負担額を軽減することができますし、多額の医療費を用意する必要もありません。高額療養費は月単位で計算されるということも含め、予備知識として覚えておくといいでしょう。
5.会社が知っておきたい賢い節税術とは
記事の前半では保険料にはまつわる話題を取り上げましたが、ここからは会社の節税術にまつわる話題を取り上げていきます。
会社にとって最も基本的かつ利用しやすい節税術として経費があります。ここで言う経費とは仕事に直接関係があるとされる費用のことを指します。例えば接待などの会食費もそうですし、従業員の慰安旅行の費用なども経費として計上することができます。
経費の最大のメリットと言えば経費計上したものについては全て損金とみなされ、その金額分だけ税金を控除されることにあります。
ただし会社が経費であると主張したものが全て経費として認めてもらえる訳ではありません。例えば会社としてではなく経営者個人としての生命保険は経費になりませんし、従業員が身につけるためのスーツ代はもちろん経費とは認められません。「税法は、個人事情を考慮していない」ことを肝に銘じ、その上で会社のどういった費用が経費と認められるかを吟味する必要があります。
またここでも一つ注意点があります。会社の経費として本当に使用した支出を経費として計上するのは良いですが、プライベートで使用したお金まで経費として計上するのは考え物です。こうした経費は明らかにブラックであり、違法行為です。税務署としても怪しい経費があれば後日確認の連絡をとろうとしてくるので、余分なストレスを増やさないためにも会社の経費だけを計上するようにした方が無難でしょう。
6.経費の領収書を保管する意義とは
経費を計上することで節税術になることに触れましたが、その経費が本当にあったかどうかを客観的に確認するために必要となるのが領収書です。
領収書の保管は法律でも決まった義務であり、法人の場合では7年、個人事業主の場合では確定申告の種別により5〜7年と保管期間が異なります。領収書の保管が法律での義務である一方で、経費が本当に存在したことの照明としての役割も果たしてくれます。
例えば領収書がない経費について税務署から確認された場合を想定すると分かりやすいですが、領収書がなければ税務署としてはその経費が本当に存在したかどうかを確認する術はありません。あるいは税務署が虚偽の申告であるとみなし、厳重な注意もしくは何らかのペナルティを課してくることも十分考えられます。領収書をきちんと保管することはすなわち、自社の節税術に役立つとともに経費の存在を明らかにするために必要となります。
そんな領収書を保管する方法としては、A4用紙に貼り付けていく方法がおすすめです。余裕があれば科目ごとやお得意先ごとに分類すると見やすいですが、そんな時間が確保できないという場合には日付の早い順に貼り付けるだけでも構いません。
最近では領収書をスキャンして電子データとして管理している会社もあります。そうした方法であれば領収書がかさばらず保管しやすいメリットがありますが、その際はきちんとスキャンできるよう領収書の全面に糊付けしておくと便利です。
領収書をA4用紙に貼り付けた後にバインダーに綴じて管理するという方法が最も合理的ですが、それさえ面倒だという場合には月ごとに封筒に分けて保管しておくだけでも事足ります。ただそうなると領収書を探す度にいちいち封筒の中身をひっくり返さなければならず、余分な仕事が増える要因にもなります。
従業員の誰が見ても分かりやすい状態で領収書を管理しておけば後から探しても見やすいですし、何より紛失の心配もありません。会社の節税対策として経費を重視するのであれば、なおさら領収書の管理には細心の注意を払うべきかもしれません。
まとめ
会社にとっては必要な仕事分を割り振ったがために発生するのが残業というものですが、従業員の負担を減らすように優先することで保険料を安く抑えられ、なおかつ従業員の福利厚生を充実させることにも一役買います。特に4〜6月の給料で標月が高くなる可能性があることを考慮した上で、毎年のように4〜6月だけ給料が高くなる場合には年間の給料の平均をとって標月を計算する方法を導入した方が無難でしょう。
会社の利益を優先するあまり従業員を疎かにしていては、結局のところ作業効率が上がらず最大限の利益を生み出すことも難しくなってきます。会社として従業員を預かるからには賢い節税術を実践し、従業員の一人一人にまで配慮できるよう心がけていくことが大切です。