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2019/09/27
建設業特有の勘定科目である未成工事受入金と未成工事支出金とは
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はじめに
一般的な業種の企業であれば長くても一年以内で収益の上がる仕事を行うことが多いですが、建設業では数年がかりでの工事を請け負うことも少なくありません。ただそうなってくると一般的な業種のように商業簿記を用いる訳にはいかず、建設業会計という特殊な会計ソフトを使って会社のキャッシュフローについて把握しておかなければなりません。その中でも特に考え方が難しいのが、建設業ならではの勘定科目である「未成工事受入金」と「未成工事支出金」の2種類です。
この記事では一見するとややこしく感じられる、未成工事受入金と未成工事支出金という勘定科目の正しい扱い方について解説します。建設業の特殊な会計事情を正しく把握しておらずどんぶり勘定になっているという経営者の方は、この記事の内容を参考に改めて建設業特有の勘定科目について理解を深めてみてはいかがでしょうか。
1.建設業会計はなぜ必要か
冒頭でも建設業が特殊なスパンで動いていることを前述しましたが、本題に移る前にまずは建設業会計がなぜ必要なのか、その理由について簡単に確認しておきます。
建設業では1年間の事業年度内に工事の着工および完成、その代金の支払いや受け取りが完了しないことが割と多くあります。特に数年単位での工事を請け負った場合には、事業年度途中で必要となった代金の一部あるいは全額を前もって受け取ることも少なくありません。その逆もまた然りです。
ただ未完成の工事について受け取った前受金を収益として計上してしまうと、年度ごとで会社の損益にばらつきが出てしまいます。こうなると会社としての実際の損益が第三者からは分からなくなり、結果的にに投資している株主や金融機関などが正しく判断できなくなってしまいかねません。
そうならないためにも建設業の特殊な事情に配慮した会計方法が必要であり、その要望を満たすために生まれたのが建設業会計という訳です。
2.工事完成基準と工事進行基準の違いとは
建設業では工事の進捗に応じて、発注元に対して請負先である建設業者が随時報酬を請求して報酬を受け取るという制度があります。こうした支払い方法のことを「出来高払い」と言い、出来高払いで請求するべき報酬の金額を見積もる基準として「工事完成基準」と「工事進行基準」とがあります。
建設業界全体では工事完成基準が主流であり、これは現在着手している建設物の完成した割合から出来高請求する金額を決める基準となります。それに対して工事進行基準では工事の進捗度合いをいったん数値化し、それに見合った適正原価を計算することで出来高請求する金額を決める基準となります。
工事完成基準の方が会計的な手間も少なく出来高請求しやすいことから、工事完成基準を採用している中小企業は割と多いです。しかし実際に出来高請求する基準として会計的に正しいのはむしろ工事進行基準の方であり、工事完成基準では厳密に原価を把握できない点が以前から問題点として指摘されています。
総工費10億円超の大規模な工事であれば工事進行基準を適用せざるを得ないのですが、中小企業ではそういった大規模工事を請け負うことが滅多にないため業界的な慣習が未だ抜け切らないのでしょう。出来高払いについては以下の記事で詳しくまとめられているため、興味があれば目を通してみてもいいでしょう。
3.未成工事受入金の正しい会計処理とは
前章では出来高請求するための基準である工事完成基準と工事進行基準について、大まかに紹介しました。この章ではいよいよ本題である未成工事受入金の正しい会計処理の仕方について解説していきます。
ここで言う「未成工事受入金」というのは建設業会計独自の呼び名であり、一般的に使われている商業簿記で類似するものとしては「前受金」が挙げられます。
会計処理の仕方が分かりやすいよう、ここでは工事を請け負った事業年度の翌年に完成品の引き渡しが行われる場合を想定します。工事を請け負った年度内に工事の進捗に応じた報酬を受け取った場合、そのお金は未成工事受入金として貸借対照表の負債欄に記載しておきます。これは工事完成時点での売上として計上する前提であるため、いったん横に避けておく意味があります。
そして建設物が完成した翌事業年度の時点で、貸借対照表上に避けておいた未成工事受入金を改めて「完成工事高」として会計処理します。この完成工事高というのがいわゆる「売上高」のことです。
つまり出来高払いで受け取ったお金はあくまでも前受金という性質であるため、その金額分をそのまま売上として計上してしまうのは誤った会計処理となります。工事の途中で受け取った報酬については未成工事受入金としていったん貸借対照表の負債にしておき、工事完成時点で損益計算書の完成工事高に金額を振り替えるのが正しい処理です。
4.未成工事支出金の正しい会計処理とは
未成工事受入金の会計処理について解説したところで、未成工事支出金の正しい会計処理についても併せて解説しておきましょう。建設業会計で言うところの「未成工事支出金」とは、商業簿記で言うところの「仕掛品」と類似しています。
未成工事受入金と同様の例で解説するとしたら、まず工事の途中段階で発生した支出については貸借対照表上の資産としていったん計上しておきます。そして建設物が完成した時点で損益計算書の「工事原価」へと振り替えます。
この未成工事支出金では該当する費用が多く、例えば以下のようなものがあります。
・建設物の材料費
・別会社に工事の一部分を振り分けた時の外注費
・廃材処理費 など
工事中は未成工事支出金として計上した費用のやり取りについて、相手する取引先が多くなりやすい傾向にあります。そのため未成工事支出金として経費計上する場合では、振り替え漏れがないよう細心の注意を払って会計処理していかなければなりません。
仮に未成工事支出金として会計処理していない状態で経費計上してしまった場合では、修正申告しなければならない可能性も出てきます。くれぐれも処理漏れがないよう注意しましょう。
5.建設業会計の注意点とは
ここまで未成工事受入金と未成工事支出金の会計処理について解説してきましたが、ここで最後に建設業会計における注意点についていくつか紹介しておきます。
5-1.建設業会計では独自の名前が使われている
ここまでの内容でも前述しましたが、建設業会計では独自の名前が使われており、商業簿記に載っているものとは全然違う響きへと変化しています。これは建設業の特殊な事情が絡んでいるとはいえ、建設業で働く方の中にも商業簿記は知っているけど建設業会計についてはあまり知らないという方もいるかもしれません。
ここで商業簿記と建設業会計で類似する性質を持つ勘定科目について、改めて列挙しておきましょう。
①貸借対照表上の科目
・商業簿記の「売掛金」≒建設業会計の「完成工事未収入金」
・商業簿記の「仕掛品」≒建設業会計の「未成工事支出金」
→資産の欄に記載する
・商業簿記の「前受金」≒建設業会計の「未成工事受入金」
・商業簿記の「買掛金」≒建設業会計の「工事未払金」
→負債の欄に記載する
②損益計算書上の科目
・商業簿記の「売上高」≒建設業会計の「完成工事高」
・商業簿記の「売上総損益」≒建設業会計の「完成工事総損益」
→収益の欄に記載する
・商業簿記の「売掛金」≒建設業会計の「完成工事原価」
→費用の欄に記載する
商業簿記と建設業会計では類似する勘定科目もあるものの、その処理については一種独特なものがあります。基本的に建設業会計では工事途中でいったん計上しておき、工事完成後に改めて別の科目へと振り替えることになると覚えておきましょう。
5-2.どの工事の会計処理か判別できるようにしておく
建設業では同時並行で複数の工事を請け負うこともしばしばあり、そうなると複数分の工事の会計処理についても同時並行的に行わなければならないことになってきます。
そうなった時に見分けがつかない状態だと会計処理が思うように進められないため、工事No.を割り振ったり、その工事だと分かるような名前を付けておくのがいいでしょう。また誰が見てもすぐ分かるような名前の付け方だとなお良いです。
5-3.会計処理を正しく行えば会社の実態が把握できる
記事の前半で出来高払いの基準として慣習的に工事完成基準が誤って採用されがちであることを前述しましたが、会計処理が正しく行われずどんぶり勘定になってしまうことで、経営者もまた自分の会社がいくらの利益を上げているのかが把握できなくなります。
また工事完成基準では適正原価の把握ができないため、場合によっては出来高請求の金額が原価を下回り費用の方が高くついてしまっていることもあるかもしれません。
経営者自身が会社の実態を把握できない状態では第三者からの評価も厳しくなるばかりでなく、自社の利益が思うように上がらないことの原因がどこにあるのか自ら見えないようにしているのと同じ状態であるとも言えます。会社の実態を把握するためにも未成工事受入金と未成工事支出金という二つの勘定科目はかなり重要なため、漏れなく会計処理していくよう心がけた方がひいては会社のためになります。
6.建設業許可の「一般」と「特定」の違いとは
建設業での特殊な会計処理についてここまで紹介してきましたが、この章では話題を変えて建設業許可についてもその概要を解説しておきます。
建設業で会社経営をする上では建設業許可を取得する必要がある訳ですが、建設業許可には「一般」と「特定」の2種類が存在します。元請業者として仕事を受注するか、下請業者として受注するかによって建設業許可の内容が変わってくるのですが、具体的にはどのように違うのでしょうか。以下で順に確認していきましょう。
6-1.「一般」と「特定」の違いとは
建設業の工事は実は29種類と豊富であり、それぞれの工事を受注するためにはそれぞれの建設業許可を取得する必要があります。
建設業許可では「一般」と「特定」の2種類がある訳ですが、実際には同一業種で「一般」と「特定」の2種類の許可を貰うことはできません。ただし別業種で許可を貰うこと自体は可能なので、複数の業種で許可を貰い会社経営をすることはできます。
6-2.一般建設業許可の概要
「一般」と「特定」の大まかな違いについて確認したところで、まずは一般建設業許可の定義から見ていきましょう。一般建設業許可の定義としては以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
①元請としてではなく、下請として工事を受注する
②元請として受注した場合であっても、下請に出さず自社のみで施工を完結させる
③元請であっても4,000万円以上の工事は下請けに出さない
この要件を見ても分かるように、一般建設業許可では基本的に工事を全て下請で受注することが前提となっています。そのため下請業者として工事を受注することが目的であれば、一般建設業許可さえ取得しておけば特に問題ありません。
6-3.特定建設業許可の概要
その一方で特定建設業許可は、元請業者として工事を受注するために必要な許可となります。特定建設業許可が必要な工事の具体例としては、一件分の工事での下請け代金が4,000万円以上の工事を下請けに出す場合がこれに該当します。
建築一式工事に関しては6,000万円以上と例外はあるものの、通常の工事の場合では合計4,000万円以上の下請け代金で複数の下請業者を見積もるためには、特定建設業許可が必須になることはまず知っておかなければなりません。
6-4.なぜ特定建設業許可が必要か
こと建設工事に関しては専門工事が複数必要になる場合が多いことから、下請業者が重層的に必要となることが一般的です。そうした実情から下請業者の保護および建設工事の適正な施工をするために、特定建設業許可を取得する必要性が出てきます。
実際の工事を想定すれば分かることですが、4,000万円以上もの工事を受注する会社が万が一にも倒産してしまったら甚大な被害が出ることは目に見えています。工事の完成を左右する重大な役割を担う会社であればこそ、会社の技術力や経営力の面で信頼できる会社であることを証明する必要があるという訳です。
そんな特定建設業許可を取得しようとすると、①専任技術者と②財産的基礎の条件面が特に厳しく審査されることになってきます。
6-5.特定建設業許可で特に厳しい2点の条件とは
建設業許可を所得するためには合計5点の条件を全て満たす必要がありますが、特定建設業許可では上記の2点が特に厳しく設定されています。
①専任技術者
特定建設業許可を得るためには、下記のいずれかの条件を満たす専任技術者が必須となります。
1、資格
建設業の種類に応じた国家資格者
(例)土木工事業:1級土木施工管理技士、技術士
建築工事業:1級建築施工管理技士、1級建築士
2、経験
一般建設業の要件+建設業の種類に応じた工事について、元請として4,500万円以上の工事を2年以上、指導監督をした実務経験
※特定建設業のうち、指定建設業(土木、建築、管、鋼構造物、舗装、電気、造園)の7種類に関しては必ず1級の国家資格等が必要になる
この専任技術者が最低1人いれば理論上は問題ない訳ですが、何らかの理由により辞めてしまうとその時点で特定建設業許可の維持が難しくなります。そのため理想を言えば上記の条件を満たす専任技術者が、最低でも会社に数人は在籍している状態が望ましいと言えます。
②財産的基礎
財産的基礎の要件では以下の条件を全て満たす必要があります。
1、資本金が2,000万円以上ある
2、自己資本が4,000万円以上ある
3、欠損額が資本金の20%以下である
4、流動比率が75%以上ある
どちらの条件も実現するためにはなかなか厳しい部分はありますが、特定建設業許可の財産的基礎の要件は特に厳しくなっています。一般建設業許可の場合では新規申請の時のみ見られるのに対し、特定建設業許可の場合では5年ごとの更新時にも条件を全て満たしているかどうか見られることになります。
6-6.建設業許可の欠格要件とは
ここまで「一般」と「特定」の違いについて確認してきましたが、会社経営に携わる人間の場合では個人として「欠格要件」に該当しないかどうかも問われてきます。経営陣に欠格要件に該当する人間が一人でもいると、建設業許可の新規取得や維持が難しくなるのが実情として挙げられます。
ただし欠格要件に該当するからといって建設業で働けないという意味ではなく、経営陣から外れてしまえば一般の従業員として、あるいは専任技術者として働くことは可能です。ここで最後に、建設業許可に関する欠格要件についても簡単に確認しておきましょう。
①人的欠格要件
経営陣の一人でも下記の条件に該当する場合では、建設業許可の取得が難しくなってきます。
・成年被後見人、被保佐人※1または破産者で復権を得ていない者※2
・不正の手段で許可を受けたこと、営業停止処分を受けたことなどにより、建設業の許可を取り消された日から5年を経過していない者
・建設業許可の取り消しを免れるために廃業届をしてから5年を経過しない者
・建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたこと、または請負契約に関し不誠実な行為をしたことなどにより営業の停止命令を命ぜられ、その停止の期間が経過しないもの
・禁固以上の刑※3に処せられ、その刑の執行が終わり、またはその刑を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
・建設業法や一定の法令※4に違反し、罰金刑処せられ、その刑の執行が終わり、またはその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
・暴力団員や暴力団員でなくなってから5年経過していない者
・暴力団員がその事業活動を支配されている者
②書類上の欠格要件
建設業許可を取得する場合では申請書類および添付書類を提出することになりますが、これらの書類のどちらかで虚偽の記載がある、あるいは重大な内容の記載漏れがある場合には書類上の欠格要件に該当すると判断されます。
仮に建設業許可の取得後に欠格要件が発覚してしまうと、新たに取得した許可については取消処分を受けることになってしまいます。また取り消し後5年間は建設業許可を取得できないことになっているため、経営陣の経歴については事前に十分確認しておいた方が無難かもしれません。
まとめ
今回は建設業会計特有の呼び名も含めて、会計処理に関する内容を解説しました。会社のキャッシュフローを正しく把握するためには、正しい会計処理が必須となることを忘れてはなりません。これについては、意識さえしておけば自社内だけでも何とか対応できるはずです。
ただ会社の資金繰りが危うくなった時に限って、自力で対応できないこともしばしばあります。そんな時には資金調達マスターの無料相談サービスを利用することで、あなたの悩みを一気に解決することもできるかもしれません。
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