はじめに
起業して間もない会社が手軽に資金調達できる手段として注目を集めたICOですが、近年では国内および海外での法規制が厳しいものとなってきています。
特に2017年1月には、中国政府が違法ICOを通じて違法な資金調達をした者には死刑を処する可能性があるとまで示唆されました。
仮想通貨が登場した当初は法規制もなくICO自体に違法性は少なからずないという見解だったにもかかわらず、何故これほどまでに急速に法規制が行われているのでしょう。
この記事ではICOが抱える問題点や国内および海外における法規制の現状を解説します。
日本国内でのICOによる資金調達は現実的にかなり難しい側面があり、起業して間もない会社であればなおさら取り扱いを断念せざるをえない事態となっています。
資金調達手段としてICOを検討している方向けに、今回はICOについて法的な観点から知識を深めていきましょう。
1ICOの問題点とは
国内外の法規制の現状について解説する前に、まずこの章ではICOがそもそも抱える問題点について解説していきます。
ICOに違法性があるとして注目を集めるようになったのはつい最近のことですが、とりわけ国内においてはICOの実態を把握しての法規制には未だ至っていません。
そのためICOを行いたい場合には、現状施行されている法律に照らし合わせて違法性の有無を調べなければなりません。
今回の記事では違法性がある仮想通貨についてのみ「仮想通貨」と呼称し、それ以外の違法性がないと判断できる仮想通貨についてはその性質から「暗号通貨」と別途呼称することにします。
1ー1 ICOが違法とみなされるのはなぜか
かつては日本国内でのICOは完全に合法ではないにせよ、グレーゾーンであるというのが主な風潮でした。
しかし現在ではICO自体が違法行為であるという認識が周知されつつあり、仮想通貨に対する風当たりが非常に厳しくなってしまいました。
ICOへの認識が厳しく改められることとなった背景として、海外でのICO詐欺問題が多数報告された問題がありました。
ここでICOの具体的な仕組みについて簡単に説明しておきます。
ICOとはまずその会社が独自のトークン(通貨)を発行した後に、投資家に既存の仮想通貨で一度購入してもらいます。
そして次にICOを手がける会社が既存トークンを仮想通貨交換所を経て現金化するというものです。
上記の仕組みを見ても分かる通り、ICOでの資金調達であればIPO(新規株式公開)のように、証券取引所のような第三者機関を介入させる必要がありません。
また仮想通貨はインターネットを介することで日本のどこにいても取引ができる高い利便性があり、現金化するまでの期間が短く済ませられます。
起業したい経営者にとってはこの上なく手軽な資金調達の仕組みであると言えるでしょう。
ただその一方でICOに関する法規制がこれまでなかったために、海外ではICOを利用した詐欺事件が数多く発生しました。
例えば「ICOを利用した儲け話に一口乗りませんか?」といった甘い誘い文句で便乗したところ、お金を騙し取られただけでICO自体がそもそも行われなかったという詐欺のケースが実際にありました。
あるいはICO自体は行われたものの取引所に上場するには至らず、結果として金銭的価値のないトークンを掴まされたというケースも報告されています。
その信憑性が不確定であるためにICOの儲け話でお金だけを奪われた投資家たちが海外で多いことが発覚し、結果としてICOは違法行為ではないかという認識がインターネットを通じて高まっていきました。
1ー2 ICOに利用できるトークンの種類とは
ICOを利用した詐欺行為によってICOの信憑性が揺らぐ結果となりましたが、ICOに利用できるトークンにもいくつか種類があることを皆さんご存知でしょうか。
ICOの仕組みを簡単に解説したところで、次にICOに利用できるトークンの種類についてそれぞれ見ていきましょう。
・仮想通貨型トークン
一般的な仮想通貨としてのイメージが強いタイプのトークンです。この種類では決済および送金手段としての利用が想定されており、ビットコインやイーサリアムのような仮想通貨が代表的です。
このタイプのトークンでは「改正資金決済法」に抵触する恐れがあるため、会社独自のトークンとして発行する場合には国が定める「仮想通貨交換業」への登録が必須となります。
仮想通貨交換業の詳しい内容については後ほど詳しく解説します。
・ファンド型トークン
一般的な仮想通貨のような金銭的価値はないものの、トークンの保有割合に応じてその会社から収益の一部が分配されるものがこれに該当します。
株式で例えるならば配当金を貰えるというイメージに程近いですが、このタイプのトークンでは金融庁が提示したICOガイドラインの一部に抵触する恐れがあります。
そのガイドラインの一部を抜粋すると以下のようになります。
「ICOが投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます」
法規制が適用される可能性がある以上、ICOによる資金調達として利用するには些かハードルが高いのが現状です。
・プリペイド型トークン
このタイプのトークンでは発行している会社の商品やサービスの購入のみに利用が留められますが、発行するトークンが「前払式支払手段」に該当します。
こうなると多額の現金が必要となってくるため、資金調達が目的であればICOすることの旨味がなくなってしまう可能性があります。
・優待会員権型トークン
いわゆる株主優待をイメージしてもらえれば分かりやすいかと思いますが、このトークンを保有していることで会社独自の商品やサービスを会員限定で受け取れるようになります。
このタイプのトークンを発行している会社の設定次第では、その会社と提携済みの会社からもサービスを受けられる可能性があるかもしれません。
ただ仮想通貨としての価値が一切ないため、株主優待として魅力的な商品やサービスが用意できなければ購買意欲をそそらないトークンであることは覚えておいた方がいいでしょう。
・アプリケーション・プラットフォーム型トークン
このタイプのトークンではインターネット上に既に存在しているアプリケーション・プラットフォームを利用することになります。
具体例を挙げるとすれば、イーサリアムのプラットフォーム・アプリケーション利用料の支払い手段としてイーサーというトークンが独自に発行されています。
こうしたタイプでは仮想通貨型トークンと同様に決済および送金手段として利用可能な場合が多く、「改正資金決済法」で言うところの仮想通貨に条件が合致してしまいます。
そのためこのタイプのトークンを発行したい場合には同じく「仮想通貨交換業」の登録が事前に必要となります。
ひとえに暗号通貨と言っても多種多様なタイプのトークンが現に存在しています。
それでは国内の法律で定めるところの「仮想通貨」とは、いったいどのようなものが該当するのでしょうか。
その詳細については次章で詳しく解説します。
2法律規制
仮想通貨を含めた暗号通貨の概要をある程度頭に入れたところで、次に国内での法規制について解説していきます。
国内での法規制は暗号通貨の仕組みにそぐわない法律によって現状行われていますが、具体的にどのような規制が存在するのでしょうか。
2ー1 仮想通貨に該当する条件とは
仮想通貨の定義については「改正資金決済法」において以下のように定められています。
「1物品の購入・仮受け、または役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること」
「2不特定の者を相手方として購入・売却を行うことができる財産的価値であること」
「3電子機器その他の物に電子的方法によって記録され、電子情報処理組織を用いて移転することができるものであること」
「4日本通貨・外国通貨、通貨建資産でないこと」
この条件を簡単に要約すれば、不特定多数の人との売買にインターネットを介して利用できる法定通貨以外で通貨としての価値を満たすものと言い換えることができます。
そのためビットコインやイーサリアムのような仮想通貨は「改正資金決済法」における「仮想通貨」に該当することになり、これらのトークンと類似する性質を持つトークンを独自発行したい場合には「仮想通貨交換業」の登録が必須となる訳です。
2ー2 ICOに関する法規制の実態とは
現状ではICOを取り締まるための法律が存在しませんが、昨年10月に金融庁は「約束されていた商品やサービスが提供されないリスクがある」として、ICOへの注意喚起を促す文書を公表しています。
またその後2018年2月には「仮想通貨交換業」の登録をせずICOを企図しているとして、ブロックチェーンラボラトリーに対して「改正資金決済法」に基づく形での警告を発布していました。
ICOの自主規制団体として「一般社団法人日本仮想通貨事業者協会」がありますが、その団体が昨年12月に公表したICOガイドラインでは以下のような記述があります。
「当該トークンは国内又は海外の取引所を通じて「本邦通貨又は外国通貨との交換市場が存在する」又は「1号仮想通貨との交換市場が存在する」ことが明らかである。また、取引所に上場しているトークンの場合、通常、発行者による制限なく売買又は交換ができることから、上記の考慮要素に照らして、仮想通貨に該当するものとして取り扱うことが適当と考える」
「トークンの発行時点において、将来の国内又は海外の取引所への上場可能性を明示又は黙示に示唆している場合はもちろん、そのような示唆が存在しない場合であっても、発行者が、本邦通貨又は外国通貨との交換及び1号仮想通貨との交換を、トークンの技術的な設計等において、実質的に制限していないと認められる場合においては、仮想通貨に該当する可能性が高いため、仮想通貨に該当しないとする個別具体的な合理的事情がない限り、原則として、トークン発行時点において、資金決済法上の仮想通貨に該当するものとして取り扱うことが適当と考えられる」
つまり
①取引所に登録済みのトークンは改正資金決済法上での「仮想通貨」として取り扱う
②上場が示唆されるトークンならびに技術面で「仮想通貨」との換金が可能なトークンは同法上の「仮想通貨」とみなすということを意味しています。
国内でのICOに関する法規制は未だ策定途上にあるため、厳密な罰則規定は今後決定されていく見込みです。
3海外での法規制
国内ではICOを巡り新法案が策定されている最中ですが、その一方で海外での法規制はかなり進展しています。
この章では海外における法規制の在り方を最後に紹介しておきます。
3ー1 ICOを全面禁止している国
現時点で中国および韓国はICOを全面禁止していますが、それぞれの国でICOに関する規制を緩和あるいは解除しようとする動きが想定されています。
特に韓国はそもそも仮想通貨による投資が盛んな国であり、ブロックチェーン産業の育成に熱心なことが知られています。
ICOに規制をかけたままではブロックチェーン産業の育成が阻害されてしまうため、ICOに関する規制を解除する方向性が出ているという話もあります。
また中国がICOを全面禁止したことに端を発して各国のICOに関する法規制が進んだ訳ですが、同国高官へのインタビューによれば制限付きでICOを認可する動きがあるという報道も過去にされました。
いずれの場合にせよICOへの規制が緩和されるのは時間の問題かもしれません。
3ー2 ICOに一定の規制を設けている国
一定の規制を設けている国はアメリカを始めとしてスイスやオーストラリア、イギリスなど数ヶ国が該当します。
各国の規制方針を挙げるとキリがないのでここでは割愛しますが、ICOを利用することでのリスクを重要視しての規制をそれぞれ設けていることは確かです。
3ー3 ICOに独特の規制を設けた国
基本的にはICOについて容認的な見解を示しているフランス、ジブラルタル、ロシアなどの国々では上記の規制よりもさらに特徴的な規制を設けています。
例えばロシアの場合であればトークンの開発および発行に専用ライセンスを用意しており、またICOの主催者にはおよそ170万ドル相当の名目資産が必須であるなどの条件を別途付与しています。
ICOを容認する姿勢は見せてもある一定の条件に該当する前提での容認であり、かなりの資産家でもなければICO自体に規制がかかるところは他の国と大して違いはありません。
まとめ
唯一規制を設けない国としてはベラルーシがありますが、国家レベルでICOが完全に容認される予定であるのは前代未聞です。
国内でも仮想通貨の信憑性が高まれば法規制が緩和されることはありえますが、新法案が策定されている現状では法規制がどこまでのものになるか誰にも分かりません。
ただ今後ともICOに関する論争は世界規模で行われることが想定されるので、仮想通貨でのビジネスに興味がある方は今後の展開に要注目です。
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