はじめに
新聞を日頃から読む方であれば、「〇〇の格付けを〜に格上げ」といった文言を見たことがあるかもしれません。
これは企業格付けと呼ばれるものなのですが、個人投資家でもない限りは、この企業格付けにどのような意味があるか知らない方の方が多いことでしょう。
その一方で、今後株式投資をしようかと考えている方であれば、企業格付けのことを知っておいて損はありません。
そこで今回の記事では、個人投資家が見るべき企業格付けについて解説します。
企業格付けの見方や理解を深めることで、自らが投資するべき企業を探すことに役立ちます。
個人投資家への第一歩を踏み出す意味でも、この記事で企業格付けについて学んでみてはいかがでしょうか。
1章:企業格付けの概要
この章では、まず企業格付けの概要と題して、企業格付けの基本的な知識について解説していきます。
機関投資家のような投資の専門家であれば最新の情報を仕入れるために莫大な資金を動かすこともできますが、個人投資家ともなるとそうはいきません。
個人投資家の情報量の乏しさをカバーするために制度化されたとも言える企業格付けですが、いったいなぜそのような制度が生まれるに至ったのでしょうか。
1ー1 企業格付けとは何か
企業格付けとは、主に企業が債務の返済をきちんと行うかどうかを客観的に分かりやすく評価したもののことで、格付け自体は主に格付けアナリストとも呼ばれる民間企業の専門家が行っています。
特に有名な格付け会社について具体例を挙げるとすれば、海外のスタンダード&プアーズ社(S&P)や、ムーディーズ・インベスターズ・サービス社がこれに該当します。
ただし格付け会社については日本国内にもいくつかあり、日本格付研究所(JCR)や格付投資情報センター(R&I)などが挙げられます。
格付けの評価の出し方については各社によってそれぞれ微妙に異なりますが、ここではR&Iの格付けを一例として取り上げておきます。
AAA:多くの優れた要素を兼ね備えており、最も信用できる企業である
AA:信用度は極めて高く、かつ優れた要素がある
A:信用度は高く、一部の要素が優れている
BBB:信用度は十分高いが、環境が変化した場合に注意すべき要素を含んでいる
BB:信用度自体はそれなりに高いが、将来的に注意すべき要素がある
B:信用度に何らかの問題を抱えており、かつ動向を観察するべき要素がある
CCC:信用度に重大な問題があり、債務不履行に陥る可能性がある
CC:ここで発行される債務が全て不履行になる危険性が高い
D:既に発行されている債務が全て不履行になっていると、R&Iが判定している
上記のような格付けを格付け会社が新規に行ったり、既につけた格付けを格上げあるいは格下げした場合には、いくつかの情報メディアを介してその情報は個人投資家へと広く発信されることになります。
この企業格付けを基に、個人投資家はその企業が投資するに足る企業であるかどうかを判断することになります。
1ー2 企業格付けはどのように活用するか
前述したR&Iの企業格付けを見ても一目瞭然ですが、企業としての信用度が高いところほどAAAに近い評価となります。
そして格付けが低い企業ほど投資するには向いていない要素が多くなり、その企業が発行する債務が後々不履行になる危険性をはらんできます。
この企業格付けについては世界各国の投資家たちが注目していると言っても過言ではありません。
格付けに関する情報がメディアによって拡散されてすぐだと、株式や為替の相場などが大きく流れが変わることがしばしばあります。
例えば、国内企業の企業格付けが現状よりも格上げとなった場合では、その情報が買い要素と判断されるため株価が値上がりする傾向になります。
またその一方で、現状の格付けよりも格下げになった場合では、売り要素と判断されるためその企業の株価が値下がりする傾向を見せるようになります。
企業格付けを行う格付け会社の規模によっても影響力が変動するため、有名な格付け会社が情報を発信した場合だとその情報はすぐさま市場の動意を得ることになります。
個人投資家として企業格付けを活用する場合では、その評価が高い企業になるべく投資するようにして、かつ評価が低い企業については投資を控えるよう心がけるといいでしょう。
1ー3 企業格付けは個人投資家のために生まれた
冒頭でも前述したように、企業格付けとはそもそも個人投資家のために生まれた制度です。
例えば、個人投資家が企業や国家の発行する債権に投資しようと考えた場合、金融機関に関わる専門家のような財務分析や情報の適宜収集を行うことはまず不可能です。
仮に株式上場している企業では個人投資家に向けて情報を開示していますが、だからといって企業側が開示する情報を選別して不利な情報は隠している可能性がないとは全く言い切れません。
こうした個人投資家が背負うべき信用リスクを多少なりと減らすために制度化されたのが、この企業格付けになります。
ただ、企業格付けでは主に債務の返済に関する信用度についてのみ格付けを行っているため、企業格付けの評価が高いからといって必ずしも株価が値上がりするという意味ではないので十分注意しましょう。
企業格付けの基本的な知識については大まかに解説しましたが、民間企業が行う企業格付けとはそもそも信用できるものなのでしょうか。
次章では、その点についてさらに詳しく掘り下げていきます。
2章:企業格付けは信用できるのか
企業格付けが格付けアナリストによる個人投資家のための情報であることは把握できましたが、そうではあるにせよ、民間企業が企業格付けを行っているのであればそれを素直に信用してもいいものでしょうか。
2ー1 格付け会社がお金で評価を変える可能性は低い
ここまでの内容を読んだ上で「企業格付けを今後とも活用しよう」と考える方もいれば、「格付け会社が賄賂を受け取り、その企業に有利な情報を流すことはないのだろうか」と疑ってかかる方ももちろんいるでしょう。
例えば、ある企業から賄賂を受け取った格付け会社がその企業の評価を根拠もなく引き上げたとしましょう。
個人投資家はもちろん、機関投資家からの注目度が高まり、一時的には株価が値上がりすることもあるかもしれません。
ただし後からその企業格付けが不正内容ものであったことが発覚すれば、その格付けを行った格付け会社の信頼は地に堕ちることは目に見えています。
一時的な利益を追い求めて企業から賄賂を受け取ることは、確かに格付け会社にとっての利益となりうるかもしれません。
しかし、格付け会社としての信頼が失墜すれば本末転倒です。
格付け会社が不正に企業格付けを操作する可能性は全くないとは言いませんが、その可能性は限りなく低いと言えるでしょう。
2ー2 企業格付けの信ぴょう性が問題になることも
前項では格付け会社が不正に企業格付けの評価を操作する可能性が少ないことを前述しました。
しかし、過去には企業格付けの信ぴょう性が問題視された一件がありました。それが2007年に起こったサブプライムローンによる世界的な金融危機です。
例えば、実質的には信用度がほぼないに等しいサブプライム関連の住宅ローン証券に、AAAという企業格付けの中で最も高い評価がついていました。
あるいは当時破綻寸前であったエネルギーの卸売りを担うエンロンや、通信会社であるワールドコムに、まるで投資が適当であるかのような格付けがつけられていました。
またS&Pの格付けアナリストが、イタリアの財政や銀行システムに関する偏った情報を意図的に発信していたことも過去にはありました。
これは実際にイタリアの財務警察によってS&Pが家宅捜査を受けるまでに事態が発展しており、その事件の裏側には誤った情報で市場を操作しようという魂胆があったと言います。
このような事件からも分かるように、企業格付けを行う格付け会社が不正を働き、個人投資家たちが翻弄されてしまうことは実際にある話なのです。
ただ、格付け会社の信ぴょう性が微妙なラインであるとはいえ、個人投資家にとって客観性の高い情報を発信できるメリットがあるため、このような問題点が認知されながらも企業格付けは未だに行われ続けているのが現状です。
2ー3 日本での企業格付けへの規制
しかし、企業格付けの問題点が広く認識されるようになり、日本国内においても何の対策もとられなかった訳ではありません。
2009年の金融商品取引法の改正において、企業格付けを行う格付け会社について以下のような規制がかかることになりました。
・誠実義務(第66条の32)
「信用格付業者並びにその役員及び使用人は、独立した立場において公正かつ誠実にその業務を遂行しなければならない。」
・業務管理体制の整備(第66条の33)
「用格付業者は、信用格付業を公正かつ的確に遂行するため、内閣府令で定めるところにより、業務管理体制を整備しなければならない。前項に規定する業務管理体制は、専門的知識及び技能を有する者の配置その他の業務の品質を管理するための措置並びに自己又は格付関係者(信用格付の対象となる事項に関し利害を有する者として内閣府令で定める者をいう。第六十六条の三十五において同じ。)の利益を図る目的をもつて投資者の利益を害することを防止するための措置その他業務の執行の適正を確保するための措置を含むものでなければならない。」
・名義貸しの禁止(第66条の34)
「信用格付業者は、自己の名義をもつて、他人に信用格付業を行わせてはならない。」
・禁止行為(第66条の35)
「信用格付業者又はその役員若しくは使用人は、その行う信用格付業に関して、次に掲げる行為をしてはならない。
一 信用格付業者又はその役員若しくは使用人が格付関係者と内閣府令で定める密接な関係を有する場合において、当該格付関係者が利害を有する事項として内閣府令で定める事項を対象とする信用格付を提供し、又は閲覧に供する行為
二 格付関係者に対し当該格付関係者に係る信用格付に重要な影響を及ぼすべき事項として内閣府令で定める事項に関して助言を行つた場合(格付関係者からの求めに応じ、次条第一項に規定する格付方針等の内容を告げた場合その他助言の態様に照らして投資者の保護に欠けるおそれが少ないと認められる場合として内閣府令で定める場合を除く。)において、当該信用格付を提供し、又は閲覧に供する行為
三 前二号に掲げるもののほか、投資者の保護に欠け、又は信用格付業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為」
このように法律上で規制をかけた状態で、過去の様々な問題があったにせよ企業格付けは依然として行われているのです。
まとめ
個人投資家では理解しにくい企業の情報を分かりやすく、かつ客観的な情報に変換して発信しているのが企業格付けのそもそもの役割です。
確かに問題点がない訳ではありませんが、その情報が今なお市場への多大な影響力を誇ることもまた事実です。
企業格付けの情報を鵜呑みにしては危険な部分もありますが、企業分析と併せて投資の可否を判断する材料として役立てることでメリットがあることは知っておいた方がいいでしょう。
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