はじめに
会社を起業して間もない状況下で選択できる資金調達の方法はそれなりに限定されていますが、中でも知名度が比較的低い方法としてベンチャーキャピタルがあります。ベンチャーキャピタルの審査が緩く比較的手軽に資金調達できたという時代も今は終わり、審査が厳しくなっているのが現状です。
そこで今回の記事では、ベンチャーキャピタルの審査がなぜ厳しいのかという点について解説します。ベンチャーキャピタルと一口に言っても支援の形態や専門とする業種、さらには決定方式などが各社によってまちまちです。そうした違いを理解することで自身の会社に見合ったベンチャーキャピタルを探しやすくなり、審査を通過するための方法を模索することができます。
審査が厳しいという噂に流されベンチャーキャピタルを諦めた方も、今一度ベンチャーキャピタルの利用について検討してみてはいかがでしょうか。
1章:ベンチャーキャピタルの概要
この章ではまず、ベンチャーキャピタルそのものがどういった仕組みであるのかについて解説していきます。
そもそもベンチャーキャピタルとは、成長性の高い市場に属するベンチャー会社に、未公開株を購入する形で資金を提供する会社のことを指します。一般的には株式上場時のIPO(新規公開株)の売却やM&Aなどによりリターンを得ることを目的としており、あくまでも慈善事業での支援ではありません。
また、ベンチャーキャピタルで出資される資金は、その会社自身の自己資金であることが以前は多くありましたが、最近ではその事情も変わり、企業や個人などから募ったファンド(基金)を利用する場合も増えつつあります。
ベンチャーキャピタルは本来アメリカ発祥なのですが、アメリカのベンチャーキャピタルが成長性の高いベンチャー企業に対する成長支援が特徴的であるのに対し、日本のベンチャーキャピタルは自社もしくはファンドへの出資者に対するリターンの確保に重点を置いています。
また、以前であればベンチャーキャピタリストとしての専門知識に乏しい担当者が多かったため、メディアの情報に依拠する形で出資すべきベンチャー会社を選定していました。しかし近年ではベンチャーキャピタルを手がける会社の数自体が増加傾向にあるため、競合間での差別化も相まって専門知識を有するベンチャーキャピタリストの養成が一部の会社で急速に浸透しつつあります。
ベンチャーキャピタル自体が徐々に周知されるようになり、競合社が増えたことで日本国内のベンチャーキャピタルを取り巻く環境が劇的に変化しているのが現状です。またアメリカに拠点を置くベンチャーキャピタルが国内市場に参入していることもあり、日本のベンチャーキャピタルが今まさに過渡期に直面しているのは確かです。
ここに審査が厳しくなるに至った所以があるのですが、次章ではもう少し踏み込んだ内容に言及していきます。
2章:ベンチャーキャピタルの変遷
ベンチャー企業にとっての有益な資金調達の手法でもあるベンチャーキャピタルですが、時代の変遷とともにそれらを取り巻く環境も劇的に変化している最中です。この章では前章の内容を補足する形で、ベンチャーキャピタルの変遷について解説していきます。
ベンチャーキャピタルの市場が賑わうとともに従来の会社としての在り方に変化が生まれた要因として、以下の事柄が挙げられます。
①経営コンサルタントおよび事業者の参入
専門性の薄いベンチャーキャピタル市場にこれまでの経験を活かす形で、経営コンサルタントおよび事業者が新規でベンチャーキャピタルを設立するようになりました。これにより専門的な経営支援を行えるベンチャーキャピタルが増え、今後はアメリカのように資金提供だけでなく経営支援も行えるベンチャーキャピタルの増加が期待されます。
②大手ベンチャーキャピタルからの独立
大手ベンチャーキャピタルで経験と専門知識を身につけたベンチャーキャピタリストが、独立する動きが相次いで見られます。このため①と同様に、ベンチャー企業のパートナーとして会社経営を支援できるベンチャーキャピタルが今後は増加する可能性があります。
③外資系ベンチャーキャピタルの参入
前章でも述べたように、近年では外資系ベンチャーキャピタルが国内市場に参入する傾向があります。発祥地のアメリカで磨かれた経営支援のノウハウが日本でも浸透すれば、より専門性の高いベンチャーキャピタルが確立されるようになるかもしれません。
この他にも要因はいくつかありますが、大まかにはベンチャーキャピタルの増加により会社としての質が問われるようになってきたと理解しておけばいいでしょう。日本のベンチャーキャピタルには本来欠けていた要素が近年の動向により補われる可能性があり、より現場に即した資金提供ならびに経営支援を行えるベンチャーキャピタルが出現する可能性があると言えます。
ただ、ベンチャーキャピタルの専門性が高まると同時に、審査の厳しさが増しているのも事実です。ベンチャーキャピタルの審査がなぜ厳しくなってしまったのかについては、また後ほど詳しく解説します。
3章:ベンチャーキャピタルのメリット
ここまでベンチャーキャピタルそのものについて解説してきましたが、この記事を読む方の中には、審査の厳しさだけでベンチャーキャピタルの利用を諦めている経営者の方もいるかもしれません。この章では改めて、ベンチャー企業の経営者がベンチャーキャピタルを利用することのメリットについて見ていきましょう。
3ー1 資金の返済義務がない
ベンチャーキャピタル最大のメリットとも言えるのが、出資してもらった資金は返済しなくてもいいということです。これはベンチャーキャピタルが株式上場後に出資金以上のリターンを得ることを目的としているためです。
仮に融資の場合であれば、提供された金額については利息も合わせて返済する義務があり、毎月の返済額次第では経営が傾くことだって十分考えられます。そうした資金繰りへの負担がないだけでも、起業して間もないベンチャー企業がベンチャーキャピタルを利用することのメリットは大いにあると言えるでしょう。
3ー2 経営支援を受けられる
これは近年になって現れつつある本格的なベンチャーキャピタルについて言えることですが、専門性の高いベンチャーキャピタルから出資してもらった場合に限り、資金的な部分だけでなく人的、経営戦略的な部分でも支援を受けられる可能性があります。これは本来アメリカでよく見られるベンチャーキャピタルの形式ではありますが、主観的な見方では得られなかった第三者視点での客観的な意見を聞くことで、今後の事業展開に幅を利かせたり上方修正することができるかもしれません。
ただベンチャーキャピタルでは自社の利益を中心に据えて物事を急速に押し進める方針の会社もあるため、場合によっては経営に過剰干渉されるリスクがあることには注意しておかなければなりません。
ベンチャーキャピタルを利用するメリットはひとえに企業価値を高められる点にあると言えます。アメリカで主流である本格的なベンチャーキャピタルから支援を受けることで経営者としての管理能力が鍛えられ、結果的に企業価値を高めることができるようになります。
外部の出資者から資金提供を受けることの意味の重さを実感させられることになる一方で、経営者として成長できる可能性もまた存在するのです。ベンチャー企業のおよそ9割近くが事業で失敗して消えていく中で生き残るためには、こうした厳しい現実に直面することで経営者としての真価を問われることが必要不可欠であるのかもしれません。
ベンチャーキャピタルのメリットをある程度把握したところで、次章では本題であるベンチャーキャピタルの審査の厳しさについて解説していきます。
4章:なぜベンチャーキャピタルの審査は厳しいか
ここまでの内容でも何度か書いたように、ベンチャーキャピタルは成長性のあるベンチャー企業に出資することでリターンを得る会社のことを指します。その提供する資金が自己資金であるにせよ、出資者から募ったファンドであるにせよ、ベンチャー企業の選定には特に慎重を期します。
最近ではインターネットが普及して膨大な情報が常時溢れており、将来有望なベンチャー企業の情報を探すだけでも一苦労です。
またベンチャーキャピタルの存在を知りどうにか資金を調達したい経営者が直接連絡をとってくることもあり、ベンチャーキャピタルは数多くの経営者と面談してそのプレゼンを聞かなければなりません。
かつては将来有望とされるベンチャー企業が、数多く寄ってくるベンチャーキャピタルの中から優良な会社を一社選ぶというスタイルが一般的でした。しかし、ベンチャーキャピタルの競合社が増えて各社が独自の専門性を高め合っている厳しい市場動向があるからこそ、ベンチャーキャピタルの審査は以前にも増して厳しくなっているのだと言えるでしょう。また、公的機関による中小企業の支援制度が増え、起業して自分の好きなように働くという働き方が浸透しつつあることもまた、ベンチャー企業の数を増加傾向に一転させた要因だと考えられます。
以上のような事情によりベンチャーキャピタルの審査が厳しくなりましたが、審査が厳しいからといって全く望みがない訳ではありません。次章では審査が厳しいことも踏まえた上での、ベンチャーキャピタルの審査を受けるポイントについて確認しておきます。
5章:ベンチャーキャピタルの審査に受かるには
ベンチャーキャピタルの審査が厳しいことを知った上で、資金調達するにはどのような点に気をつけるべきなのでしょうか。この章では記事のまとめとして、ベンチャーキャピタルの審査に受けるためのポイントについて簡単にですが紹介します。
5ー1 ベンチャーキャピタルの意思決定方針を知る
ベンチャーキャピタルの場合であっても普通の会社同様に、投資委員会と呼ばれる取締役員の決定に基づき出資の可否が決められています。またベンチャーキャピタルの各社によっても意思決定方針にそれぞれの特徴があるため、ベンチャーキャピタリストとの面談の際にはその会社がどのようにしてベンチャー企業を選定するかを聞いてみるといいでしょう。
例えば全会一致制か多数決制かによっても審査の厳しさが格段に違ってきますし、担当者として取り次いでくれるベンチャーキャピタリストの意見がどの程度信頼されるのかでも違ってきます。初めての面談であれば聞きにくく感じられるかもしれませんが、審査に受かるための必要事項でもあるので質問してみることをおすすめします。
5ー2 投資決定までの過程を知る
ベンチャーキャピタルが投資先を選ぶのには、以下のような過程を辿るとされています。
①案件会議
②マネジメント・プレゼンテーション
③投資委員会
④会計および法務的デューデリジェンス
まず①の段階で、ベンチャーキャピタリストは社内向けに当該ベンチャー企業に対する出資の検討の許可を求めることになります。そしてその際にベンチャーキャピタリストが、投資委員会から経営者にどのような要点を聞きたいと考えるかを抽出します。
②では経営者が投資委員会に直接プレゼンテーションをすることになります。事前に聞き出した内容に基づきプレゼンテーションを行うため、投資委員会に自社のことを印象付ける最重要の段階となります。
②を通過できたら次は③の段階となります。事業展開する予定の市場の成長率はどうか、あなたの会社が手がける製品およびサービスは顧客を獲得して普及するかなどを、ベンチャーキャピタリストが投資委員会に対して返答する運びです。ベンチャー企業の経営陣とベンチャーキャピタリストとが協同して答える段取りとなるため、事前に返答の内容を練ってから答えることができます。
③の段階が通過できたら後は④の段階で、会計および法的に問題がないかを最後に確認します。
5ー3 ベンチャーキャピタリストに伝える内容を精査する
ベンチャーキャピタルでは融資の場合と違い、重点を置く箇所に以下のような特定の基準があります。
①明確なビジョンがあるか、経営者としての経験は豊富か、戦略に明確な根拠と妥当性はあるか、などから判断できる経営者としての資質があるか
②価格、品質、機能などの部分で差別化できるに足る製品やサービスの独自的な優位性があるか
③数年来で急速に成長を遂げることが見込まれる市場であるか
ベンチャーキャピタルもまた確実にリターンを得られるような、将来有望なベンチャー企業を探しています。現状よりも数年後の成長率を重視する傾向にあるため、現時点で利益が出ていなくても出資してもらえる可能性はあることくらいは覚えておくといいでしょう。
まとめ
ベンチャーキャピタルは会社によってその専門性や投資する時期に特徴があります。ただ、出資してもらえたら資金的にも経営的にも助かる部分が出てきます。ベンチャーキャピタルの審査が厳しいからと敬遠するのではなく、自社に成長性の高さや独自的な優位性があれば挑戦してみるに越したことはありません。
ベンチャーキャピタル以外にも資金調達の方法はさまざまですが、企業のおかれているフェーズや時期的なタイミング、業種、企業の規模など、多くの条件が最適な方法を選べるか否かに関わってきます。
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