はじめに
会社を設立する上で経営者の方が真っ先に直面する問題として、会社の資金調達があります。創業資金として少なくとも700万円を用意しているところが多く、1円から会社を設立できるとはいえ会社の資金については多ければ多いほど助かるものです。ただ現実的に自己資金だけで会社の資金繰りを完結させることは非常に難しく、そんな時に頼りになるのがエンジェル投資家の存在です。
この記事では中小企業の強い味方になるエンジェル投資家の概要について解説します。またこの記事では「エンジェル投資家は、本当に起業家のエンジェルなのか?」の内容を参考にしています。エンジェル投資家について興味のある方はそちらの記事も読んでみると知識が深まります。
1.エンジェル投資家とは何か
エンジェル投資家とはそもそもいったい何なのでしょうか。ここで言うエンジェル投資家とは資金が潤沢にある投資家のことを指し、基本的にはエンジェル投資家本人が「ビジネスアイデアやビジネスモデル、事業計画書、ビジネスの市場性・市場規模などを精査し、事業の将来性や有望性を判断」でき、なおかつ「面談を経て、成功が確実と判断」できた会社の経営者に対してのみ出資する形となります。
資金調達に苦労している経営者からすれば出資してくれる投資家はまさしく天使のように見える、というのも納得の話です。
1-1.ベンチャーキャピタルとはどう違うか
資金調達に困っている会社に個人的に出資してくれるのがエンジェル投資家というイメージなのですが、会社として出資してくれる場合も実際にあります。これはベンチャーキャピタルと呼ばれるものですが、投資家達から募ったお金でベンチャーキャピタルを専門に手がける会社が運用・管理して、資金調達に困っている会社へと出資するというものです。これだけ聞くとエンジェル投資家とベンチャーキャピタルとではさほど違いがないようにも感じられます。
ただしエンジェル投資家とベンチャーキャピタルとでは決定的な違いも存在します。ベンチャーキャピタルは株式公開を目指す会社にのみ出資することになるという点です。ベンチャーキャピタルでは「株式を取得することで投資を行い、株式公開後に株売却をすることで利益(キャピタルゲイン)を得る」ことになります。そのため株式公開を目指す会社でなければそもそも条件に合致できず、利用を検討することもできません。全ての会社において株式公開を目指す訳ではないので、ベンチャーキャピタルについてはなかなか利用する機会も少ないかもしれません。
1-2.エンジェル投資家は融資ではないのか
エンジェル投資家は会社に対して出資してくれる存在であることをここまで確認しましたが、会社の資金調達の一種である融資とは違うのでしょうか。結論から言うと、エンジェル投資家からのお金はあくまでも出資です。
融資と言えば日本政策金融公庫や地方自治体が実施する制度融資を思い浮かべる方も多いでしょう。融資の場合では資金調達できたところでそのお金については利息も含め返済しなければなりませんし、借りられる金額についても限度額が実質的には存在します。
例えば日本政策金融公庫が実施する新創業融資制度では「一定の条件を満たせば最大3,000万円(うち運転資金1,500万円)までの事業資金を低利で融資」してもらえると言われています。ただし実際には自己資金分のおよそ2倍の金額までが限度額になることが多く、上限額の3,000万円を借りられることはそうそうありません。返済義務がある点と限度額以上には借りられない点を加味すれば、融資というのも使い勝手が必ずしも良いとは言えません。
ここまでの違いを会計的な観点からさらに解説すると、エンジェル投資家からの出資は「資本」として、制度融資で得たお金については「負債」として会計上は分類されることになります。負債という側面がある以上は融資を利用するとその分の返済に追われる可能性があり、場合によっては会社の資金繰りが悪化する原因にもなりかねません。
その点エンジェル投資家からのお金は出資ということで、受け取った側の経営者がそのお金を返済しなければならないといった義務は生じません。出資してもらったお金については経営者側が責任を負う必要はないため、言い換えれば「エンジェルは倒産による出資金の全損というリスクを承知の上で起業家に投資をしている」ということです。エンジェル投資家からお金を受け取れれば、その分の金額は会社経営のために最大限に有効活用できる点は非常に魅力的と言えるでしょう。
ここまでエンジェル投資家とはどういった存在であるのかについて言及しましたが、経営者側にとってはこの上なく美味しい話であっても、エンジェル投資家側からすればどういったメリットがあるのでしょうか。次章ではその点について確認していきます。
2.エンジェル投資家のメリットとは何か
いくら資金が潤沢にあるエンジェル投資家と言えども、会社に出資することに対して何のメリットもない状態でお金を出資する訳ではありません。実際にはエンジェル投資家にもそれなりのメリットがあり、具体的には以下のようになります。
「(1)成長によって出資に対する配当(利益)が得られる
(2)エンジェル税制による所得税の減税措置が受けられる」
上記の内容だけ見るとエンジェル投資家にとってのメリットが少ないようにも感じられますが、エンジェル投資家には実際に成功体験のある起業家という方も多いです。そのため後進の起業家を育成するために出資するというエンジェル投資家もいます。エンジェル投資家としてもメリットがあるため将来有望な会社には可能な限り出資したいと考えるという訳です。
エンジェル投資家が会社の経営者にとって頼もしい存在であることは確認しましたが、世の中にはエンジェル投資家の名を騙り経営者を利用しようとする「エセエンジェル」というものも存在します。
次章では経営者として知っておきたいエセエンジェルの特徴について紹介しておきます。
3.エセエンジェルの見分け方とは
エンジェル投資家と経営者とが出会う場としてはマッチングサイトを利用することになりますが、中にはエンジェル投資家が本来守るべき条件を無視するやり方で出資を行うエセエンジェルも混じっていることがあります。具体的にはどういった部分で見分けることが可能なのでしょうか。
3-1.出資に返還義務はない
ここまでの内容でもエンジェル投資家は融資ではなく出資している点に言及してきました。マッチングサイトで出会えるエセエンジェルだと、「事業に失敗した場合には出資分を返還する義務」を要求される場合があります。しかし出資したお金の返還を求めるのであればそれは出資ではなく実際には「融資」であり、「元本保証を条件にしているのは出資法違反の可能性」も考えられます。
会社に対する出資の責任を負うのはあくまでも経営者ではなく、エンジェル投資家側であることを肝に銘じましょう。
3-2.事業参画を求められたら要注意
エンジェル投資家の多くが実際に成功体験のある起業家としての顔を持つことを前述しましたが、仮に「事業参画する権利」を求められた場合には要注意です。本物のエンジェル投資家であれば起業家としての経験を活かし会社経営に役立つアドバイスをくれる可能性は十分ありますが、エセエンジェルともなると話は別です。場合によっては自ら起業した経験のない人間である可能性も考えられ、実績も素性も分からない人間を会社の事業に参画させることは非常にリスクが高い行為と言えます。
エンジェル投資家から経営に関するコンサルタントを受けて会社を成功に導きたいという気持ちは分かりますが、最初から事業参画させることは避けた方が無難です。
エンジェル投資家は基本的に後進の会社を育成する目的から出資を行うことが多くなります。ただしエセエンジェルの場合では自らの利益だけを追求しているため、時として会社にとってデメリットになりうることをも平気でやってのけます。出資を申し出てくれたエンジェル投資家が本当に信頼できると分かるまでは、なるべく慎重に対応していくことが望ましいでしょう。
4.エンジェル投資家の現状とは
ここまでエンジェル投資家から出資を受けることのメリットについて解説してきましたが、日本では本当の意味でエンジェルと言える投資家の数が少ないのが現状です。例えば「平成26年に開催された第2回経済財政諮問会議によれば、アメリカのエンジェル投資額約2.3兆円に対し、日本はわずか9.9億円、投資件数はアメリカの6万7,000件に対し日本は45件」とかなりの差が開いています。また「エンジェル投資家の人数にいたっては、アメリカの26万8,000人に対して日本はわずか834人」であり、アメリカと日本とでエンジェル投資家の現状はずいぶんと違ってきます。
ただそうは言ってもインターネット上のマッチングサイトにも本当のエンジェル投資家は混じっています。また「人材企業や地方自治体、経済団体などが開催する起業家と投資家の交流会やイベントでエンジェルを探すという方法」も実際にあります。
いずれにせよエンジェル投資家に対してアプローチする際には、自身の会社にかける情熱はもちろん、会社経営を成功へと導けるだけの周到な事業計画が必要となることは言うまでもありません。
まとめ
いかがでしょうか。日本ではまだまだ少数派と言えるエンジェル投資家ですが、会社のための出資者としては非常に心強い存在であることは確かです。ただエンジェル投資家もまたひとりの人間である以上、経営者との相性というものもあります。
単なるお金の提供者としての関係性に終わるのではなくより良いビジネスパートナーとなるために、エンジェル投資家を選ぶ際には時間をかけてでもお互いの相性を含め細かく見ていくことが大切です。